2024年11月22日(金)

プーチンのロシア

2023年8月2日

 本格的な内戦に突入することも懸念される中、思わぬ仲介者が現れる。それが、隣国ベラルーシの独裁者ルカシェンコだった。プリゴジンはルカシェンコの説得を聞き入れ、24日夜にワグネル部隊は撤収を開始、武装蜂起はあっさりと収束した。

 そして、ロシアのペスコフ大統領報道官は6月24日深夜、プリゴジンに対する訴追は停止され、同氏はベラルーシに身を寄せることになると発言した。また、プーチン大統領は26日の国民向け演説で、個々のワグネル隊員は、①国防省等と契約して軍務を続けるか、②家族のもとに帰るか、③ベラルーシに向かうか、自由に決めて良いと表明した。

 とにかく、過去3年間のルカシェンコは、プーチンの靴を舐めるようにして、どうにか権力の座にしがみついてきた。プリゴジン蜂起の報に接し、ルカシェンコは持ち前の嗅覚で、プーチンに恩を売って彼との関係をなるべく対等なレベルに戻すチャンスを見出したのだろう。

 6月23日に反乱を起こした時点で、プリゴジンは完全に頭に血が上っていた。プーチン大統領との直接対話は、成り立たない状態だった。その点、ロシアの政治家ではないが、以前からの知り合いで、腹を割って本音をぶつけ合えるルカシェンコは、プリゴジンに矛を収めさせる上で絶妙な交渉役だったのだろう。

 さて、当初はベラルーシに「島流し」かと思われたプリゴジンだったが、その後の様子を見ると、実際にはロシアとベラルーシの間を自由に行き来しているようだ。他方、7月末までに、5,000人程度のワグネル兵がベラルーシに設けられた宿営地に移動したと伝えられる。

 ベラルーシを代表する政治評論家のV.カルバレヴィチ氏が強調するように、ルカシェンコはこれまで、軍や治安機関が台頭して自らを脅かさないように細心の注意を払ってきた。今回ルカシェンコは行きがかり上、ひとまずプリゴジンの身柄とワグネル部隊を預かることになったものの、プーチンですら手を焼いた異物を国内に抱え込むことは、ルカシェンコにとり大きなリスクだと、カルバレヴィチは指摘する。

 もっとも、実質的にプーチンに押し付けられたにせよ、プリゴジンおよびワグネルを受け入れると決まった以上、ルカシェンコは状況を最大限に利用しようとするはずだ。おそらくは、国内の反体制派弾圧、ベラルーシ人義勇軍「カリノフスキー連隊」への備え、欧米に対する牽制といった使い道が、ルカシェンコの頭の中を巡っているのではないか。

 なお、カリノフスキー連隊とは、ベラルーシ国民のうち志のある者が義勇兵としてウクライナ防衛のために馳せ参じて結成された部隊である。彼らは、単にウクライナの地でプーチンを倒すだけなく、勝利のあかつきには祖国に攻め上がってルカシェンコ体制を打倒することを究極的な目標としている。せいぜい数百人規模ながら、ルカシェンコはかなり警戒している様子だ。

アジア・アフリカへの道

 2023年の1月から3月にかけて、ルカシェンコはジンバブエ、アラブ首長国連邦(UAE)、中国、イランと外遊を重ねた。欧米諸国からは厳しい制裁を受ける身であり、外遊の選択肢は限られ、今年序盤に訪れた国もアジア・アフリカばかりであった。


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