2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年8月7日

 ヨシュカ・フィッシャー元ドイツ外相が、非営利の言論サイト「プロジェクト・シンジケート」に7月21日付けで掲載された論説‘Erdoğan Comes in from the Cold’の中で、トルコのエルドアン大統領はスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟への異議を取り下げて西側に回帰したが、彼の振る舞いは欧州連合(EU)とトルコがいかに違うかを示したとしつつ、トルコの重要性に鑑み、この違いは管理されねばならない、と論じている。要旨は次の通り。

(Gutzemberg/gettyimages)

 何年もの間、エルドアンのさらなる権威主義化、終わる見通しのないクルド労働者党(PKK)との戦争などのトルコの国内的な問題が、NATOおよび西側とトルコとの関係の障害となって来た。2017年のロシアのS-400対空ミサイルシステム購入の決定は米国とトルコの軍事協力の終わりを告げるもののように思われた。その時までに、EUとの和解はほぼ完全に行き詰まっていた。そして、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟申請へのトルコの拒否によって事態は危機的となった。

 しかし、過去一年ほど、エルドアンは既に静かに西側と接触を持ち、黒海を通じるウクライナの穀物輸送を可能とする合意について仲介者の役目を務めつつあった。ビリニュスのNATO首脳会議において、エルドアンは、米国によるF-16戦闘機売却の約束の見返りに、遂にスウェーデンの加盟に対する拒否を取り下げた。更に、彼はウクライナの将来のNATO加盟に支持を表明した。クレムリンにとっては不快であったろうが、エルドアンは西側の船団に完全に回帰した。

 トルコの地理的な位置と地政学的な重要性も無視できない。トルコはロシアの中東と東地中海へのアクセスをボスポラス海峡によってコントロールしている。中東、中欧アジア、コーカサス、バルカンにおける主要なプレーヤーであり、EUの主要国におけるトルコ系市民に対して重要な影響力を有している。トルコは数百万の難民の受け入れ国となっており、彼らが殺到することを防ぐ上でEUはトルコに依存している。

 しかし、エルドアンは、スウェーデンのNATO加盟の一件に見られるように、目的を前進させるためには、恐喝その他の攻撃的な手段に訴えることを厭わない。常に賢明に行動する保証もない。

 そうであっても、トルコは無視するには重要過ぎるので、好むと好まざるにかかわらず、欧州の首脳はエルドアンと仕事をする必要がある。協力は安全保障や移民のような相互に関心のある問題に絞ることが最善である。EU共通市場、関税同盟へのトルコのアクセスを含む、経済関係の改善も可能かも知れない。しかし、完全なEU加盟は問題外である。ウクライナ戦争はトルコと欧州が互いを必要とすることを明らかにしたが、エルドアンの振舞いはEUとトルコがいかに違うかを明確に示した。しかし、トルコの大きさと重要性に鑑み、これらの違いは管理されねばならない。

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 リトアニアの首都ビリニュスでのNATO首脳会議の直前になってエルドアンがスウェーデンのNATO加盟に対する異議を取り下げたこと、あるいは、彼がウクライナのNATO加盟を支持し、ロシアに解放された(トルコにとどまることが条件だったらしい)「アゾフ連隊」の司令官5人の捕虜の帰国を認めたことに着目して、この新たな事態の展開は欧州あるいは西側がトルコとの関係を調整する機会を提供するとの見方が行われている。


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