2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年8月7日

 エルドアンにスウェーデンの加盟に対する異議を撤回させる上での説得材料はF-16戦闘機の売却とトルコが保有する旧型F-16戦闘機80機の改良であろうということは当初から憶測があったが、バイデン政権は、消極的だった議会を説得して、実現の時期はともかく、F-16戦闘機の支援をトルコに事実上約束した模様である。F-16戦闘機のトルコへの売却との関連では、ギリシャのF-35戦闘機の売却要請の取り扱いの問題がある。米国議会にはトルコがギリシャに対して優位に立つことへの懸念があり、両案件の間の何等かのバランスが図られる必要があるが、未だ決着していないようである。そうであっても、エルドアンは取るべきものは取ったと言えるだろう。

 スウェーデンからはテロ対策の強化の約束を取り付けた。7月10日の両国首脳とNATO事務総長の三者の報道声明には「スウェーデンはEU・トルコ関税同盟の近代化とビザの自由化を含むトルコのEU加盟プロセスの再活性化の努力を積極的に支持する」とあるが、他のEU加盟国からも貿易面での何らかの譲歩を得た可能性はあろう。エルドアンは潮時と判断したものであろう。しかし、彼に西側との関係の全面的な調整の動機が働いたかどうかは疑わしい。

大きすぎる地政学上の重要性

 西側にとってのトルコの地理的な位置と地政学の重要性はこの論説が指摘する通りである。近年の軍事力・軍事産業の拡大に裏打ちされた地域覇権の野心と地理的な位置に由来する戦略的な重要性――本能的にロシアの膨張には反対する――の故に、西側はどのみちエルドアンを無視は出来ない。

 スウェーデンのNATO加盟の一件にも見られたが、彼のアプローチは個々の案件に則した取引的なものである。エルドアンが完全に西側に回帰することは有り得ず、つかず離れずの態度となろう。原則とルールにもとる行動には厳しく対処する必要があるが、安定的な関係の構築のために、状況に応じて取引を利用する巧妙さも必要だろう。

 EUではトルコとの関係の再検討が進行中のようであるが(トルコの人権問題、キプロス問題、東地中海の境界紛争は全体的な関係改善の障害である)、EU・トルコ関税同盟の近代化とトルコ市民のためのビザなし渡航の交渉再開には応ずることになろうと思われる。ただし、トルコのEU加盟の見通しは立ち難い。

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