2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年8月18日

 しかし、これらの論評は、米国の中東からの撤退が不可避であるという前提で、米国の行動を正当化しているように思われ、中国の行動パターンについての理解が欠けている。

 南シナ海の埋め立てのように、これまでの中国の行動パターンは、最初はたいした事と思えなくても後で気がつくと深刻な事態となっていることが少なくない。現時点で中国の中東地域での軍事プレゼンスが高くないからと言って、未来永劫そのままとは思えない。既に中国の中東産原油依存度は50%に達しており、中国側からすればエネルギー安全保障上致命的に重要な地域が米国の軍事的傘の下にあり続ける事は受け入れられないであろう。

 さらに、レアメタルで起きたように、将来、中国がペルシャ湾地域で圧倒的な影響力を有した場合、原油と天然ガスの供給を米国とその同盟国に対する武器として使う可能性も否定できないのではないか。

核兵器拡散に中国が手を貸す恐れも

 また、現状についても、この論文は中東地域での中国製武器のシェアは5%に過ぎないと言いつつ、中国が米国から供給して貰えない最先端の武器を供給していることを認めているが、これが問題である。恐らく、中国は遠い中東の安全保障バランスには無頓着であろうから、先端武器を売りつつけることで中東地域のパワー・バランスを不安定化させてしまう懸念が大きい。例えばサウジに中距離弾道ミサイルの製造設備を輸出し、さらに核開発の協力にも前向きのように見えるが、中東の核兵器の拡散に手を貸してしまう可能性さえある。

 そして、米国は安全保障の傘の代わりにガバナンスの向上などを支援するべきとしているが、これは米国が何回も失敗している代わり映えのしない中東の民主化であり、中東諸国が惹きつけられるとは思えない。

 米国が中東から撤退することは不可避だとしても、安易に後釜を中国に譲ることだけは避けなければならないと考える。

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