2024年5月20日(月)

食の「危険」情報の真実

2023年8月11日

 遭難の原因の7割弱が疲労と関係しているといえるかもしれない。とにかく、登山中に蓄積される「疲労」を侮ってはいけない。

登山で消費されるエネルギーと水分

 これほど運動強度であるならば、消費するエネルギーも大きい。登山の時は大量の栄養を摂取する必要がある。「カロリーゼロ」の食品なんてもってのほかだ。「登山でダイエット」と称して食物の摂取を控えるなんてこともあってはならない。

 ひとたび遭難となれば、ヘリコプターが出動したり、病院に運ばれたりと多くの人に迷惑がかかる。自分や家族も悲しい思いをする。

 それでも、自ら食べるものも背負って山を登るため、荷物を減らしたいのも事実。では、せっかくの遠出を楽しみ、元気に帰ってくるにはどうしたらいいのか。上家氏は消費カロリーと水分を算出する簡単な数式を目安に意識して摂取することが大事だという。

(1) エネルギー

 通常の食事にプラスして必要な消費カロリーは次の数式から求められる。

消費カロリー(キロカロリー〈kcal〉)=運動強度(メッツ)×体重(キログラム〈kg〉)×運動時間(時間)×1.05

体重60kgの人が4時間かけて山を上って下ってくる場合、7(メッツ)×60(kg)×4(時間)×1.05=1764(kcal)が必要となる。

 このカロリー数は、ファミレスのメニューでいうとサーロインステーキ(200g)ランチ2人前に相当する。これはかなりのボリュームである。それでは、1700kcalもの食物を背負って山に入らなくてはならないということか。

 そこで「カーボンプレロード(ここでいうカーボンとは炭水化物を意味する)」をとりいれよう。登山の前、いわゆる前の晩や当日の朝はしっかり食べておくことだ。

 その上で、登山中は歩きながらでも食べられる行動食(こうどうしょく)として、自分のこぶし程度大きさのおにぎりなど食べやすく吸収のよいものを持って行く。休憩時に食べては登り、3回の休憩があればおにぎりひとつを150kcalとして、450kcalが供給できる。また工夫を加えて、小さくて高カロリーなチョコレートやチーズ、ブドウ糖と並んですぐにエネルギーに変わる果糖を含んだドライフルーツ、塩分補給に役立つ塩あられや梅干しを持っていくと、かさばらず効率的なエネルギーが補給できる。

 下山した時もしっかり高カロリーの食事をとっていただきたい。登山では筋肉の細胞にダメージが生じるので、たんぱく質豊富な食物を食べないと疲労が長く残ることになる。下山して手打ちそばで一杯は絵になるが、エネルギー収支からは考えもの。登山によるカロリー消費の実態が理解されていたら、山頂で糖分補給のためにとりだしたキャンディがゼロカロリーということにはならないはず。

(2) 水分

 山で疲労と一緒によく起こるのは脱水症状と熱中症。必要な水分の目安は、次の式の通り。

体重(kg)×行動時間(時間)×5ミリリットル(ml)

 体重60kgの人なら、4時間の登山で1200mlの水が失われる。でも1200mlを背負っていくのは大変。そこで水でもプレロードを行い、登る前に飲んでおくのが有効である。

 スポーツドリンクは、脱水症状や熱中症のときにすぐに全身に行き渡る気がするが、登山における水の役割は飲むだけでなく、傷口を洗ったり、タオルをぬらして冷やしたりするときにも使う。真水(水道水でよい)は必ず持参しておきたい。必要な塩分は梅干しや塩あられで補えばよい。


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