2023年1月30日(月)

お花畑の農業論にモノ申す

2023年1月13日

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熊野孝文 (くまの・たかふみ)

元米穀新聞記者

1954年生まれ。東京経済大学中退後、コメの相場情報として米穀市況を速報する仕事に8年従事し、米穀新聞の記者として農家と卸売業者、小売店と、それぞれが取引する現場を40年取材してきた。近書に『ブランド米開発競争―美味いコメ作りの舞台裏』(中央公論新社)。

 たんぱく質を特殊な加工法で除去した日本発の「低たんぱく加工玄米」が新たな付加価値を持つコメとして、国内外から注目されている。腎臓病患者が主食のコメを置き換えることで病気の進行を抑える効果が見込まれ、個人の健康に寄与するとともに、国全体の医療費削減にも期待される。

(leungchopan/gettyimages)

 中国やインド、東南アジアを中心に事業化への臨床試験も進められており、コメの持つ価値を科学的に解明し、生産から商品化まで手掛け、国内外に広めるという新たな取り組みが動き出している形だ。コメ産業の衰退を打開すべく、新時代の到来を告げている。

医療に栄養学を

 低たんぱく加工玄米は、メディカルライス協会が研究開発を進めてきた。同協会は、コメ機能を医学的見地から解明し、健康効果が実証できたものを認証、普及させ、日本社会全体の健康増進を図ろうと2018年に設立された。渡邊昌理事長の「玄米で人を健康にする」という強い思いが込められている。

渡邊昌理事長(筆者撮影)

 それは渡邊理事長自身の経験からきている。国立がんセンターの疫学部長を務めていた50歳代の時、重度の糖尿病になったが、それを25年間まったく薬なしの食事療法と運動で克服した。

 その時、食事の重要性を体感、東京農業大学の教授として機能性食品を研究し、その後国立健康栄養研究所の理事長を4年務めた。そこでわかったことは、日本の医学部では栄養学を系統的に教えておらず、医者が栄養学を知らないということであった。

 その結果、日本の医療は薬漬けになり、医療費が嵩み続け、このままでは医療費破滅が目に見えた。そのことは自身の著書『「食」で医療費は10兆円減らせる』(日本政策研究センター)に詳しく記されているが、啓発するだけでは事態は改善せず、「治未病」を旗印に協会を立ち上げた。賛同者を募り、第一弾として腎臓病患者向けの低たんぱく加工玄米を世に送り出すことにしたのである。

 現在、腎臓病で血液透析を受けている人は34万人もおり、これにかかる医療費は1人年間500万円にもなる。国が負担する額はなんと2兆円にも上る。さらに毎年4万人ずつ増えており、とくに90歳以上の高齢者の患者が増え続けている。

 深刻なのは透析予備軍が149万人もいるということで、このままではまさに医療費破綻をきたすと渡邊理事長は危機感を募らせている。もちろん国も腎臓病対策を講じているが、透析患者は増え続けているという現実がある。


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