2023年11月29日(水)

家庭医の日常

2023年7月26日

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葛西龍樹 (かっさい・りゅうき)

WONCA〈世界家庭医機構〉マスター・ファカルティー、福島県立医科大学名誉教授〈地域・家庭医療学〉

1984年北海道大学医学部卒業。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から福島県立医科大学医学部地域・家庭医療学講座主任教授。2023年退職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。著書に『医療大転換 ─日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書)など多数。

病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。
(xmee/gettyimages)

<本日の患者>
K.N.さん、51歳、男性、コーヒー豆販売店オーナー。
A.N.さん、83歳、女性、K.N.さんの母。

「K.N.さん、A.N.さん、『フレイル』って聞いたことありますか」

「5年ぐらい前によくテレビで言ってましたよね、それ。介護予防なんかと一緒に。でも今はあんまり聞かなくなったんじゃないですか」と息子のK.N.さん。

「そうですね。今でも大事なことなんですが、わが日本人は熱し易く冷め易い。ブームが過ぎると社会でガタッと扱われなくなる傾向がありますね」

「私、『フレイル』なんですか」と母親のA.N.さんが心配そうに問いかける。

「A.N.さんはどう思いますか」

「わかりません」

「そうですか。今日は、A.N.さんがこれからも元気で安全に暮らし続けるために、今の生活のご様子をお聞きして、診察をしようと思います。お宅のコーヒーをゆっくり2杯ぐらい飲むぐらいの時間がかかりますが、よろしいですか」

「あら、先生。洒落たことをおっしゃるじゃないですか(笑)。もちろん良いですよ」

 K.N.さんは、この町で人気のコーヒー豆を専門に販売している店のオーナーで、奥さんと一緒に駅前通りにあるお店で働いている。私が働く診療所には、5年前に彼が痛風発作を起こして以来、高尿酸血症のマネジメントで定期受診している。

 前回の受診時に、K.N.さんが私に、「どこがどうのというのではないんですが、最近なんか母が弱ったような気がするので」と言って、母親(A.N.さん)の診察をしてほしいとリクエストしたのだった。


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