2024年5月17日(金)

家庭医の日常

2023年7月26日

「フレイル」とは

 「フレイル」は、「加齢に伴う生理的予備能力低下のため、ストレスに対する脆弱性が亢進(こうしん)した状態」を表す英語「frailty(フレイルティ)」の日本語訳として、2014年に日本老年医学会が提唱した和製英語である。その後しばらく、テレビや新聞でフレイルについての多くのニュース、各種特集番組、特集記事が報道されていた記憶がある。

 それから10年近くが経過して、フレイルについての具体的なイメージと重要性が日本で浸透しているかというと、とてもそうはみえない。日本の医師の間でも積極的にフレイルのケアに関わっている人は多くないだろう、という印象を私はもっている。

 日本老年医学会から『フレイル診療ガイド2018』が刊行されているが、このガイドラインは書籍として販売されているのみで、残念ながら、オンラインでの一般への公開はされていない。21年9月の『健康診断結果から生活習慣を改善するには』で紹介した日本医療機能評価機構のEBM普及推進事業(Minds)のホームページ『Mindsガイドラインライブラリ』にも掲載されていない。

 日本サルコペニア・フレイル学会のホームページには『フレイル診療ガイド』の一部が掲載されており、そこでは「フレイルは、要介護状態に至る前段階として位置づけられるが、身体的脆弱性のみならず精神・心理的脆弱性など多面的な問題を抱えやすく、自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態を意味する」と書かれている。

 ちなみに、「サルコペニア」とは、高齢期にみられる骨格筋量の低下と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下のことであり、フレイルとも密接に関係してくる。「サルコペニア」についてはまた別の機会にお話ししたい。

 22年1月の『年齢とともに高まる転倒リスクに対応するには』で紹介した「ジェリアトリック・ジャイアンツ」と呼ばれる高齢者ケアで家庭医が忘れてはいけない重要な症状の中にも、フレイルは含まれている。一方で、「ジェリアトリック・ジャイアンツ」に含まれるフレイル以外の症状(活動性低下、ふらつき、転倒、失禁、物忘れ、認知機能低下、サルコペニア、食欲低下、独居・孤独、引きこもり、うつ、ポリファーマシーなど)があると、フレイルになるリスクが増すことにもなる。複数の要因が、原因にもなり結果にもなって、複雑に影響し合っていると言える。

家庭医によるフレイルのケア

 フレイルに関連する家庭医のケアの流れは、次のようになる。まず、フレイルになりそうな人を見つけ出し<早期発見>、その人がフレイルになっていないかを診断する<一次診断>。幸いフレイルになっていなければ、これからフレイルにならないための方策を患者・家族と相談して進めていく<予防介入>。もしフレイルになっていれば、原因となっている可能性のあるものを同定し<二次診断>、フレイルの程度がどれくらいかを確認し<重症度評価>、フレイルの原因と程度に応じたマネジメントの対策を患者・家族と相談して進めていく<治療介入>。

 ここで大事なことは、フレイルは予防することができることと、フレイルの進行を抑えたり場合によっては改善させることができる、ということである。そのことは、さらにその先にある、種々の疾患への罹患、障害、要介護、入院、死亡を予防することへもつながっていくのである。


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