海外から見るフレイルケアの可能性
今回は、フレイルについて診断の入口までのお話となってしまったが、フレイルのケアはこれからもますます重要になってくるので、また別の機会に、特にその予防と治療についてお話ししたい。
とかく日本では、「高齢者には多くの医療費がかかって当たり前」という考えが支配的である。実は、高齢者のケアでも、質が高く費用対効果に優れたケアは可能で、多くの国々でそれぞれに工夫してきているのだ。
今は多くの情報が海外から利用可能である。フレイルに関しても、ともすると日本から発信される情報よりも海外から新しく質の高い情報を得る方が容易なことがある。いくつか例を紹介する。
もう30年以上も前になるが、私がレジデントとして家庭医の専門研修をしたカナダのブリティッシュ・コロンビア州は、当時から高齢者の包括的機能評価について先進的なアプローチとその教育に定評があった。家庭医の専門研修を修了してから老年医学の専門研修へ進む人が多く、優れた指導医によって、地域を基盤とした高齢者のケアに多職種保健専門職が協働する現場で、家庭医のレジデントも学ぶことができた。そうした伝統もあって、現在でもブリティッシュ・コロンビア州政府のホームページでは、海外からも注目される『フレイルの早期発見とマネジメント』についてのガイドラインを発表している。
もうひとつ、フレイルのケアについての情報(リソース)の宝庫は、英国NHS(国民保健サービス)がNICEの協力を得て作成・発表している『NHS Right Care』シリーズのひとつ『Frailty Toolkit』だ。すべてオンラインで参照できる資料が満載である。
ちなみに、“Right Care” というは英国の医学雑誌『ランセット』が2017年に提唱した言葉で、過剰医療や過少医療を是正して適正医療を目指すことを意味する。
フレイルではなかったが……
幸い、『日本版CHS基準』によるA.N.さんのフレイルの評価結果は「健常」だった。ただ、この半年ぐらいの間に仲の良かった友人3人が次々に病気で亡くなってしまい「心にぽっかり穴ができた」ような気持ちになっていたことをA.N.さんは語ってくれた。もう学生の頃からの友人は数名しか生きていないそうで「それはそれは寂しいものですよ」と言う。今後はうつ病になっていかないかにも気をつけて、ケアを継続していくこととした。
「コーヒー豆にもフレイルってあるんでしょうか」
突然のA.N.さんからの質問に面食らった私の答えは、相変わらずトンチンカンだった。
「『らんまん』の牧野富太郎が研究しているかもしれませんね」
「ははは、先生にはコーヒー・ブレイクが必要ですね」