フレイルの診断方法
フレイルを診断するためには多くの要素を検討する必要があり、さまざまなチェックリスト(評価基準)が考案されている。たくさんあり過ぎて、どれをどう使ったら良いか迷ってしまう。ただ、そうした中でも海外で最も広く使われているのは、Friedら米国の心血管保健共同研究グループが提唱した「フレイル表現型モデル」による基準である。
ここでは、Friedの基準を日本で使うために改変した国立長寿医療研究センターの『日本版CHS基準(2020年改定)』を紹介しよう。
(1)体重減少:6カ月で2キログラム以上の(意図しない)体重減少
(2)筋力低下:握力 男性<28キログラム、女性<18キログラム
(3)疲労感:(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする
(4)歩行速度:通常歩行速度<1.0メートル/秒
(5)身体活動:①軽い運動・体操をしていますか?
②定期的な運動・スポーツをしていますか?
上記の2つのいずれも「週に1回もしていない」と回答
*5つの評価基準のうち、3項目以上に該当するものを「フレイル」、1項目または2項目に該当するものを「プレフレイル」、いずれも該当しないものを「健常」とする
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この基準のオリジナルは英文で発表されているので、日本語版は国立長寿医療研究センター研究所フレイル研究部のホームページに掲載されているものを使用した。(5)については、オリジナルの英文と日本語版のニュアンスがかなり異なるが、深謀遠慮の末にこの日本語になったのかもしれないので、あえて原文のまま掲載した。
なお、(1)の「意図しない」というのは、体重を減らそうとして食事や運動を変化させるダイエットなどをしていない、ということである。
「A.N.さん、今度は、ほんの短い距離ですけれどこの場所で歩いてもらいます。準備はよろしいですか」
「はい。フレイルかどうか調べるって大変なんですねー」
「でも、今のところいい感じですよ。A.N.さんの握力が左右とも25キログラムもあったのは驚きでした」
「こう見えてもね、今でも結構重いものを持つんですよ」
「素晴らしい!」
歩行速度テストの実際
実際に『日本版CHS基準(2020年改定)』を使うには若干の準備・工夫が必要である。まず、握力計を用意しなければならない。そして、歩行速度をどうやって測定するかのガイドラインが日本では明示されていないので、自分で探さなければならない。さらに、通常日本の診療所や病院の外来に存在しない歩行速度を測る「仕掛け」を作らなければならない。
私の診療所では、処置室に十分明るく、障害物がなく、直線6メートルを安全に歩ける場所を確保している。その床にビニールテープで、1メートル間隔で5本の横線を貼り付けて目印にしている。
患者は最初の横線の約1メートル前に立ち、「はい!」の合図でそこから歩き始め、5本の横線を横切って「快適なペースで」歩いてもらう。最後5本目の横線を横切るまでは速度を落とさず、最後の横線から約1メートルで歩くのを止める。
最初の横線(0メートルライン)を越えて最初の片足の着地(足音)でストップウォッチをスタートし、最後の横線(4メートルライン)を越えて最初の片足の着地(足音)でストップウォッチを停止する。テストの間に十分な回復時間をとって、3回テストを繰り返してかかった時間の平均値を求める。患者は必要に応じて歩行補助具を使用しても構わない。
日本の基準では、速度の基準は秒速1.0メートルであるが、諸外国の標準的な基準は4メートル歩くのに5秒を超えることなので、秒速0.8メートルだ。