日本財政を考え直す
3冊目は日本の財政を学ぶ『教養としての財政問題』(島澤諭著、ウエッジ) を挙げたい。政府で経済分析や政策立案に長年携わった専門家が、日本の財政はこのままでいいのかと警鐘を鳴らす本である。野放図な財政支出により赤字の拡大が続く現状と課題をわかりやすく解説した。
タイトルにあるように「教養としての」という部分は、特に納税者なら知っておきたい基礎知識という含意があるのだろう。中でも高齢者に優しく、現役世代や若者にしわ寄せがゆき苦しめられている現実を著者は一貫して訴える。
社会保障制度については「低賃金化、非正規社員化の進行で困窮化する現役世代が過度に不利になり、高齢世代が有利になるような不公平な社会保障制度であっては、将来にわたって皆保険・皆年金を維持していくことは難しい」と指摘する。そのうえで、一つの考え方として高齢者の定義を変更して75歳以上とし、公的年金は全額税方式の「基本年金」として75歳から支給するアイデアを示す。
詳しい考え方は本書を参照いただきたいが、基本年金の導入でいわゆる「年収130万円の壁」(扶養控除を受ける範囲であえて労働時間を調整する問題)も解消できるという。実現の可能性は今後の議論を待たなければならないが、財政赤字を放置しこのまま拡大すると、将来どんな問題が生じてくるのか本書を読むと理解が進む。自分や日本の将来を考え直すきっかけが得られる内容である。
ライフスタイルからエンタメ、社会問題に到るまで、この夏は「見直す」意識をもってじっくりと読書に向かうと、価値ある時間になるだろう。落ち着いた気分で物事を冷静に見直すことで新たな発見と展開が生まれる可能性があり、それこそが夏の読書の醍醐味になるのかもしれない。