中国がこのような変貌を遂げれば、それは重要な地勢戦略的意味を持つ。ポルトガル、スペイン、オランダ、英国、米国といった西暦1400年以降の大国は、すべて強力で有能な造船業に支えられた海軍力を持つ海洋大国であった、と述べています。
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中国の造船業は世界一となり、それを土台に中国の軍用船舶の建造が質、量共に飛躍的に向上しているとの論文です。筆者の一人エリクソンは米海軍大学の准教授で海軍力の専門家であり、分析、見通しは信憑性があると考えてよいでしょう。
中国は、従来大陸国家と分類されてきましたが、能力、戦略の面で急速に海洋国家に変貌しつつあると見なければなりません。
中国が米国を押しのけて世界での海洋覇権国家になることまでは考えられませんが、論文が指摘する通り、中国が、2020年までに建造艦船の数で米国に追いつき、2030年までに技術的に追いつき、中国が米国と並ぶ海洋大国になるようなことがあれば、その戦略的意味は、やはり重大です。
いずれ、米国が中国の追い上げに危機感を抱き、中国が米国と並ぶ海洋大国になることを許さないとの決断を下し、国防予算の不足を回避し、建艦能力を支える人的資源の衰退を押しとどめ、「海軍の蘇生」を図る可能性は考えられます。ただ、それが手遅れになってはならず、その点、警告を発するというのが、この論文の趣旨なのでしょう。
論文は、中国がアデン湾での経験から多くを学んだと指摘していますが、そもそも、中国がアデン湾に艦艇を派遣した目的の一つはそこにあったと思われます。アデン湾での経験は、実戦ではありませんが、実際に運用してみて得た経験は、中国にとって貴重なものだったはずです。もっとも、これは、海自にも当てはまることであり、いわゆる国際貢献が、貴重な経験を得る機会になっているという側面を見逃すべきではありません。
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