他方、中東諸国にこの一連の関係正常化を促したのは、オバマ政権に始まりバイデン政権で加速化している米国の中東からの撤退であることは間違いない。とりわけイランやイスラム過激派の脅威に直面しているペルシャ湾岸のアラブ産油国は、長年の庇護者であった米国の撤退に直面し、新たな安全保障体制の構築を迫られている。しかし、一連の関係正常化が、パレスチナ問題やイランの核問題などの中東の諸問題を解決する訳ではないという指摘も正しい。
パレスチナ問題は悪化の一途
最近、欧米でサウジとイスラエルの関係正常化の可能性が報道されている。しかし、バイデン政権が、サウジとイスラエルの関係正常化がパレスチナ問題の解決に資すると考えているというのは理解し難い。パレスチナを財政的に支えているサウジを切り崩すことでパレスチナ側を兵糧攻めにするというのだろうか。少なくとも現在のネタニヤフ極右宗教政権が続く限りは、サウジ側も外聞が悪いので無理であろう。
ネタニヤフ政権は、アブラハム合意によりアラブ諸国を分断したことを誇り、占領地に入植地を増やし、パレスチナ人により過酷な対応をしている。他方、パレスチナ人は、あくまでも独立国家を求めている。そして、サウジがイスラエルと関係正常化するとしたら、せっかく和解したイラン(言うまでもなくイスラエルの大敵である)との関係はどうするのであろうか。
中東の専制体制が民衆のガバナンスの改善(民主化)要求を弾圧しているというのは、欧米で使い古された論調である。しかし、本当に中東の民衆が民主化を求めているのかについては疑問がある。結局、独裁制が復活した「アラブの春」の顛末を見れば、中東の民衆は日々の生活の改善にしか関心が無く、それを叶えてくれる、より良い独裁者を求めているだけではないだろうか。