ふたつに分けたほうが、最初の皿を食べて、次に移るとより美味しいと感じるからだと。
蝶子はいう。
「男女のふたりがええという意味と違いまっしゃろか」
放蕩のすえに父親に勘当された柳吉のために、蝶子は売れっ子芸妓の足を洗って、ヤトナになる。宴席を取り持ち、客にお酌をし、芸を見せる臨時雇いである。
ふたりが所帯をもった家の二階で、食道楽の柳吉は昆布を煮込んで、名店の味を出すのに一日を過ごす。蝶子の貯金通帳を持ち出しては、遊興にふけって、蝶子のもとに何日も帰らない。
ヤトナの仕事から帰った蝶子が見たのは、帰ってふて寝する柳吉だった。ふとんをはぎ、柳吉を問い詰め、胸倉をつかんでわめき、たたく。ふたりが倒れこむ。蝶子が柳吉の胸元に顔を寄せてすすり泣く。
モノクロの映画とカラーのドラマ
照明と音声の素晴らしさ
今回のドラマの名作に対する挑戦は、モノクロであった映画に対して、カラーであることを存分に生かしている。ふたりが住む二階屋の部屋を照らし出す朝と夕方、そして夜の美しい光景である。それに合わせるように、蝉と虫の音の音が、登場人物の心象風景と感情のもつれを浮かび上がらせる。照明と音声が素晴らしい。
カメラは、和服を着ようとしている柳吉の肩から下を映して、その表情は映さない。すわっている蝶子を柳吉の視線から映し出す。
柳吉は実家にいったん戻って、蝶子と別れると嘘をついて、父親からカネを無心するという。蝶子は四つ這いになって、柳吉の足元にすがりつく。嘘ではなく、本当に別れる魂胆がある、疑っているのである。
ふたりの部屋に柳吉の実家の番頭がやってくる。手切れ金を畳のうえにおいて、別れることを確認しようとする。
蝶子は断る。柳吉とふたりでりっぱな夫婦になる、というのだった。