2024年5月19日(日)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2023年8月31日

 子どもたちからすれば、学校に行きたければ行けばいい。行きたくなければ行かなければいい。

 大人としては、子どもたちに学校に来てほしければ、子どもたちが行きたくなるような学校を作ればいい。義務教育における義務とは、大人たちが子どもを無理やり学校に行かせる義務ではなく、大人たちが子どもたちに来てくれるように、学ぶ環境の整備を行う義務なのである。

「不登校以降」の学びの多様性

 筆者の主宰する精神科は、当科所属の全医師が思春期を診られるので、県内から中高生が多数受診する。初診患者の過半数は、20歳未満である。

 受診のきっかけの多くは、不登校で、その背後に深刻ないじめがある場合もあれば、ない場合もある。いじめやカツアゲのような明らかな被害体験がある場合は、「1枚の診断書がいじめ自殺を防ぐ 医師だからできること」に記したような対応をとるが、そのようなケースは多くない。

 睡眠相後退症候群(いわゆる「宵っ張りの朝寝坊」)による朝方の体調不良の場合は、睡眠リズムに介入するだけで、簡単に登校再開にいたる場合もある。それでも、学校に対して漠然とした違和感を抱いて、結局、再登校に至らない生徒もいる。

 私どもは、「登校せよ」とは言わない。しかし、「家の中にじっとしていては退屈だ。わくわくするようなことをやってみよう」と勧めることにしている。

 不登校の生徒の場合、相談室登校、適応指導教室、放課後デイサービスなどを利用する子もいる。高校生ならば、通信制・単位制高校に転校する生徒もいる。

 私どもが恐れるのは、不登校となったことをきっかけに、あらゆる対人関係を断ち切ってしまうことである。なかには週に一回の受診が、家族以外と接する唯一の機会になっている生徒もいる。

 しかし、思春期とは、同級生であれ、上級生であれ、親以外の他人のなかにロールモデルを見出して、そこに目標を置いて何ものかになろうと努力する年代である。家族以外にロールモデルを持ちえない状況には、置きたくない。できれば、どのような場であれ、家族以外の誰かと接する機会をつくりたい。

 それに、10代は学力だけでなく、スポーツ、音楽、芸術など多様な可能性を育てる時期である。大人としては、そのような機会を得られるよう促したい。

 学校に行く代わりに何らかの習い事をしたって悪くない。中高生ならスポーツ、武道、乗馬、楽器の演奏、ダンス・バレエ、絵画教室、料理教室、外国語、プログラミング、写真、イラスト・デジタル作画、動画編集、登山・釣りなどのアウトドア系など、いくらでもある。知的な関心の強い子なら、博物館や美術館に行ってみれば、子ども考古学、子ども勾玉づくり、子ども染め物、子ども土器づくり、子ども探検隊など、面白そうな講座などがたくさんある。対人関係が苦手なら、通信教育や、オンライン受講などもありえるだろう。


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