2024年5月19日(日)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2023年8月31日

 中学生で進学校受験をあきらめて、実業系の高校に進んで、がぜんいきいきし始めた生徒もいる。ある高校などは、思い切って資格取得の方にシフトしているのか、危険物取扱者、大型特殊自動車、初級バイオ技術、2級ボイラー技士、小型車両系建設機械、販売士、商業経済検定、基本情報技術者、ITパスポート、簿記検定など、実に多種多様な資格への道を用意している。

 筆者はこれらのどれ一つ持っていないので、なんだかすべて立派な資格に見えてしまう。少なくとも、歴史の年号を覚えたり、三角関数や微分積分の問題を解いたりするより、生きていくうえでよほど役に立つであろう。

 実生活と関係あることならば、興味が湧いて熱心に勉強し始める生徒もいる。マネーリテラシーなどは、興味のある生徒は、どんな科目より熱心に勉強するだろう。授業を聞いて、ノートにとって、丸暗記して、参考書を読んで、問題集を読んで、練習問題を解いて、試験を受けて、いい点をとる……、これだけが勉強ではない。

 通信制・単位制高校のなかには、アルバイト経験を積むことを奨励している学校もある。15,6歳の若さで、働いて給与を得ることを経験するのは、実に貴重である。

 振り返れば、それらは今の中高生の祖父母世代が、「15の春」に「金の卵」として集団就職して経験したことであった。その経験は、楽しいことばかりではなかったはずだが、それでも、働くことの意味、責任ということ、さらには、働くことに報酬がつくということの意味を経験しながら学ぶことができるはずである。

人生は勝ち組も負け組もない

 筆者は、高校卒業認定試験を経て、医学部にはいって、精神科医になった人を知っている。通信制高校を経て、医学部にはいって医師となった人もいる。不登校となってそのような道を歩んだ場合もあれば、ある特殊な技能で生きていくつもりだったが、そちらを断念して、医学に転じたという場合もある。それにしても、進学校出身者ばかりの医師集団にあっては、際立って異色である。

 筆者の知人のなかには、紆余曲折をへて精神科医という職業に行きついた人が少なくない。他科からの転向者、元サラリーマン、元中央官庁職員、元漫画家、元教師など、千差万別である。

 「人生は敗者復活戦」とは、仙台育英高校野球部・須江航監督の言葉だが、実際、人生は敗北と復活の繰り返しである。否、それよりも、人生はそもそも勝負事ではなく、勝ち組もなければ、負け組もなく、ただ、その人のユニークな道があるだけだともいえる。

 不登校となった生徒にも知ってほしいことは、「皆さんにとって、人生はいくらでもやり直しがきく」ということである。それは、若者の特権である。


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