2024年5月16日(木)

プーチンのロシア

2023年9月8日

 戦争継続の是非と既存の政治的ヒエラルキーの維持強化をめぐり諸勢力の間で熾烈な議論が起きる。誰が勝っても政権は弱体化し、ウクライナ戦の継続は不可能になるだろう。

 機能不全の経済とも相まって国民の不満は巨大化し、抗議デモが起き、国内は騒然とする。更に重要で深刻なことは世界最大の地理範囲を持つロシアは多数の民族が連邦を構成していることだ。

 当然彼らは自治権拡大を目指す。それは更に深刻な事態を生むに違いない。複雑な闘争が一斉に噴き出してくる危険がある。混沌とした大混乱に陥る可能性がある。

新生ロシアは欧米に接近するか

 現代ロシアを綿密に解説した名著「Failed State: A Guide to Russia’s Rupture」の著者である米国のジェームスタウン財団のヤヌス・ブガイスキー氏はむしろ前向きな展望を論じている(’The benefits of Russia’s coming disintegration’ JANUSZ BUGAJSKI, JANUARY 12, 2023)。来るべきロシアの崩壊は恩恵を生むというのだ。

 経済的に困窮するロシアはとどのつまり外国侵略を企てることは出来ないだろう。その結果、北極から黒海に至るまで、北大西洋条約機構(NATO)の東部戦線はより安全になる。一方、ウクライナ、ジョージア、モルドバはロシアの反応を恐れることなく占領された土地を取り戻し、欧州連合やNATOへの統合を志向するだろう。 中央アジアの国々もますます解放された気分になり、欧米側とエネルギー、安全保障、経済的なつながりを強化して行くことになるだろうと論じている。

 ロシア連邦内から欧米に親近感を持つ新しい国家が誕生し、ヨーロッパとユーラシアのいくつかの地域の安定が高まる可能性があると云うのだ。

 ブガイスキー氏はさらに、この際、西側はロシア社会に対して西側諸国は一体どの価値を大切にしているのかをロシア社会に明確に伝えるべきだとも論じている。「西側はロシア打倒の一心で攻めてくる」と思っているロシア人に対し、「西側はロシアの多元主義、民主主義、連邦主義、公民権、共和国や地域の自治を強く支持していると伝えることがロシア国民に実は自分たちは世界で孤立していないことを自覚させ、彼らを勇気づけるのに役立つ」としている。これがロシア研究の第一人者の一人である学究の意見だ。

米欧によるロシア支援が歴史的な新展開も

 私見では、ロシアが民主化に向かって行動を起こそうとする時、欧米社会は必ず建設的な行動を取り、ロシアを全面的に支援するだろう。西側では第二次世界大戦後、ソ連・ロシアという大国を民主世界に招き入れなかった失敗が強く意識されているからだ。

 だから次の機会には欧米側は全力を挙げてロシアの変化を促し、歴史的な方向転換を全面的に支援し、欧米リベラル社会の一員として共存し共栄して行こうと決心している。多くの文献がそれを論じているが下記はその一部だ(’Global Strategy 2022: Thwarting Kremlin aggression today for constructive relations tomorrow’ John E. Herbst, Anders Åslund, David J. Kramer, Alexander Vershbow, and Brian Whitmore, Atlantic Council, February 8, 2022)(’The EU’s Relations with a Future Democratic Russia’ Wilfred Martens Centre for European Studies, July 2022)。


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