ロシアによるウクライナ侵略で、国内外に波乱を引き起こしていた露民間軍事会社ワグネルの創設者、エフゲニー・プリゴジン氏が8月23日、モスクワ北西部のトベリ州でプライベートジェット機に搭乗中、同機が墜落し、ロシア航空当局は死亡したと発表した。
同日は、ロシア軍のウクライナでの特別軍事作戦失敗を声高に訴え、戦闘員をモスクワへと向かわせた6月23日の「プリゴジンの乱」から奇しくも2カ月の日。プーチン大統領はプリゴジン氏を名指しすることはなかったが、乱を鎮める際に「裏切り」と糾弾しており、真相はまだ未確定だが、「プーチン体制への裏切り者は粛清される」というロシアの暗黙の掟を地で行く形になったと言えるだろう。
ロシア国営メディアも続々と速報
墜落について、ロシアの反体制メディア「メドューサ」は迎撃ミサイルによって撃墜された可能性を指摘。英紙フィナンシャルタイムズは米中央情報局(CIA)消息筋の話として、「迎撃ミサイルによって撃墜された」と報じた。一方、ロシア国内では墜落ではなく爆発したとの情報もある。
78万人の登録者がおり、ウクライナ侵略から24日で1年半を迎えるまで、多くの内部情報を暴露してきた「ВЧК-ОГПУ」がプリゴジン氏に近い知人の話として、こんな証言を紹介している。発生からおよそ9時間後にテレグラム公式チャンネルで伝えた。
「プリゴジンはプーチンが全てを許してくれると確信しており、何も恐れていなかった。彼は多くのことを知っていた。今後、彼が残した数々のモノから何が明らかになるかを目の当たりにするだろう」
プライベートジェット機の墜落は現地時間午後6時20分ごろ、モスクワ北西部のトベリ州クジェンキノで発生。プリゴジン氏が搭乗したブラジル製の小型機「エンブラエル ・レガシー600」はモスクワの空港を立ち、プリゴジン氏の本拠地のあるサンクトペテルブルクに向かっていた。モスクワには側近たちと一緒にアフリカ諸国に行った帰りに立ち寄ったとの情報もある。
プーチン政権の厳しい情報統制下にあるロシアメディアは国営メディアも含めて、同機の墜落情報を刻々とアップデートしている。「プーチンの戦争」下で政権にとって不利益な情報がほぼ抑制される中で、今回の墜落の洪水のように流れる情報の流布は、「プリゴジン氏の死を伝えても良い」とする政権のお墨付きを得ていることがうかがえる。
一方で、トベリ州の消防・救急本部、ロシア捜査当局、航空当局なども墜落による消火活動発表や、捜査着手の宣言、搭乗者名簿の公表などを刻々と行っており、極力、情報が抑えられていた2カ月前のプリゴジンの乱とは様相が異なることも浮かびあがっている。