墜落は地元住民が映した映像で捉えられていた。
プライベートジェット機は、上空から真っ逆さまに落下してきて地上に激突、炎上した。機体は完全に燃え尽き、 前部、窓、金具の一部だけしか残っていないという。
さらに、機体は上空でバラバラになり、墜落地点から半径5キロメートルの地帯にちらばっているようだ。現地捜査当局は墜落原因の物証を集めるため、周囲を立ち入り禁止にしている。
地元住民は地元メディアに対して「上空で2回の爆発がした後に落下してきた」と証言している。
プリゴジンの最側近も狙った可能性
ロシア航空当局はこのプライベートジェット機に搭乗していた乗務員・乗客10人が全員死亡したと発表した。乗務員はパイロットや唯一の女性犠牲者であるキャビンアテンダントを含め3人。乗客はプリゴジン氏を含めて7人で、プリゴジン氏のほかにプリゴジングループの最側近や戦闘員が乗っていた。
犠牲になったドミトリー・ウトキン氏はロシア軍参謀本部情報総局(GRU)所属の元兵士で、プリゴジン氏と2014年ごろにワグネルを創設したとされる。そもそも「ワグネル」という名称は、ウトキン氏が使用していた携帯電話のコール音にドイツの音楽家ワグナーの曲目が使用されていたことから、つけられたものだとの説が有力だ。
ウクライナの戦闘地では、プリゴジン氏の存在感が際立ったが、そもそもワグネルはウトキン氏が軍部隊編成や兵士の訓練などを仕切っていたとされ、裏舞台で暗躍していたとみられる。露メディアでは「プリゴジン氏の右腕」の表現も目立つ。
一方、もう一人の最側近、ヴァレリー・チュカロフ氏も一緒に搭乗していた。プリゴジン氏がプーチン政権下で築き上げたケータリング事業やレストラン事業などのコンコルドグループを一重に引き受け、「民間事業」部門の総責任者ともされる。アフリカで展開する事業にも深く関わっていたという。
プリゴジン氏とウトキン氏、チュカロフ氏の関係を良く知る関係者は先の「ВЧК-ОГПУ」のテレグラムチャンネルに、「プリゴジン氏はいつもウトキン氏、チュカロフ氏と3人で航空機に乗っていた。チュカロフ氏は事業全体を担い、ウトキン氏はワグネルの戦闘部門を担当していた」と証言した。
一方で、犠牲者の他の4人はワグネルの古参の指揮官や戦闘員だった。ワグネルが展開していたシリアやスーダンでの戦闘経験があることが伝えられている。プリゴジン氏が持っていたとされるこのプライベートジェット機の搭乗が許される最側近だったと思われる。さらに、アフリカからの帰りであれば、ワグネルのアフリカ事業の担当者であることも推察される。
プリゴジン氏が総帥を務めるコンコルドグループは露国防省傘下の宿舎などへの食事提供で数十億ドルを稼いだとされる。さらに、アフリカ諸国での裏工作を担う代わりに、鉱山利権などを獲得して、多額の財を成しており、ロシアがウクライナ南部クリミア半島を併合した14年からロシア国内で「プリゴジン帝国」を築いていた。昨年秋には本拠地サンクトペテルブルクに高層タワーの本社ビルを建て、威容を放っていた。
プリゴジン氏は複数のパスポートなども持って自らの姿を公にすることはなかったが、「プーチンの戦争」が始まった2022年からは、表舞台に出るようになり、SNSを通してショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長を公然と批判するようになった。
6月23日には、ロシア軍の空爆でワグネル戦闘員が多数死亡したとして、「正義の行進」を始めると宣言。ショイグ氏やゲラシモフ氏の解任を求めて、首都モスクワまで迫った。
今回のビジネスジェット機墜落が、もしプーチン政権による仕業なのであれば、実行者はプリゴジン氏の命だけを狙っただけでなく、ウトキン氏、チュカロフ氏ら最側近も一緒に一網打尽にしようとした見立てが濃厚さを増すと言えるだろう。
いずれにせよ、コンコルドグループ幹部の死亡が確認されれば、「プリゴジン帝国」の解体は加速していく可能性がある。