英フィナンシャル・タイムズ紙のトニー・バーバーが、2023年8月11日付の同紙に、「ロシアが提供する新しい教育は歴史の歪曲である」と題する論説を書いている。
この9月からロシアの高校生は近代史の新しい教科書を使う。彼らは「ウクライナは超国家主義者の国である。今日、ウクライナでは反対意見は厳しく迫害され、野党は禁止され、ロシア的な全ては敵対的と宣言される」と学習する。教科書は「米国はウクラウナ紛争の主たる受益者であり、〝最後のウクライナ人〟まで、戦う決意である」と教える。
歴史の濫用はより広い目的を持つ。一つの目標はプーチンの侵略的で拡張主義的外交に国民を結集させることである。目的は新しいロシアのアイデンティティーを作り出すことである。この努力は教科書を超え、祭り、映画、テレビ、子どもたちの軍事歴史旅行、学生討論会、壁画などでも行われている。
ソ連の最後の指導者、ゴルバチョフの下では話は違った。1985~91年の彼の統治の下、モスクワは1939年のソ連のポーランド侵攻とバルト諸国の併合に至った独ソ条約の秘密議定書を非難した。その後、ソ連はポーランドのエリート2万人以上を虐殺した1940年のカティンの森事件の責任を認めた。スターリン主義の国内での犯罪もかつてないほど暴露された。
これがまさにプーチンを怒らせた。プーチンのロシアの過去の見解では、称賛に値する事件は10世紀のルーシのキリスト教改宗、ピョートルとエカテリーナの領土征服、ナポレオンのロシア侵攻の撃退、そして何よりも「大祖国戦争」(第二次世界大戦の勝利)である。非難されるべき事件はロシア国家の崩壊につながった17世紀初めの騒乱、1917年の二つの革命であり、またレーニンの民族政策(ロシア人の犠牲の下、ウクライナ人その他に好意的であった)と、ゴルバチョフの不適切な改革と、エリツィンの下での1990年代の無政府状態である。
われわれはプーチンの歴史の書き換えを深刻に捉えなければならない。それはウクライナに対する彼の征服戦争の本質的要素である。なぜならば彼は、ウウライナ人は民族ではなく、国家を持つに値しないとの全くの誤った根拠で血みどろの作戦を正当化しているからである。将来ロシアの学生はプーチンの嘘をずたずたにした教科書にアクセスを持つかも知れない。その時は早すぎることはない。
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この論説はプーチンが歴史の書き換えを行っていることを指摘したものであり、重要な点にわれわれの注意を向けさせるものである。プーチンはスターリン主義者であり、スターリン礼賛者ではないかと疑われてきたが、今やそれは疑いではなく、現実的なものになってきている。