2024年6月22日(土)

Wedge REPORT

2023年9月15日

 人間からすれば自然植生に比べて不味そうに思える植栽木をシカはよく食べる。したがって造林地へのシカの侵入防止柵(写真3)は必須である。設置にかかる費用もさることながら、見回り・補修にかかる後年度負担がばかにならない。

写真 3 シカ防止柵

 地拵え(植栽する前に残った材や枝などを整理し片付ける作業)、植栽、下刈り、つる切り、除伐、苗木の値段、侵入防止柵――。これほど経費をかけて、数十年後の木材価格は知れたものではない。

 そもそも人工林を対象とする育成林業は成り立たないのである。花粉症対策を通して見えてくるものは、再生不能の育成林業でしかない。

 したがって、皆伐を止めて、今存在する人工林も天然林も維持していくのが最良の道なのだ。それがだめなら、皆伐天然更新こそ次善の策である。

ヒノキの発生源対策がない

 林野庁の発生源対策はスギばかりで、なぜヒノキを対象としないのだろうか。不完全である。

 南東北から関東以西では、スギは沢筋の湿潤な土壌、ヒノキは中腹の少し乾いた土壌を好むので、同じ山でもモザイク状に植え分けがされている(写真4)。皆伐するのなら、いっしょにした方が効率は良いはずなのだ。

写真 4 スギ(中央)、そのヒノキ(両側)

 これについても林野庁のコメントはどこにもないが、スギには少花粉スギがあるが、おそらく少花粉ヒノキには実用性がないためだろう。頑なにスギの後にはスギ、ヒノキの後にはヒノキを植えたいらしい。

 伐採・植え替え協力金は、林野庁宿願の皆伐補助金であるが、更新樹種の少花粉スギと抱き合わせである。花粉症対策はスギとヒノキが減れば補助目的は達成されるのだから、皆伐天然更新でもよいはずだ。わざわざ「植え替え」をセットにしてまでスギにこだわる必要はない。

 本来花粉症患者のための施策を林野庁は循環型の林業という自説の都合に換骨奪胎してしまった。恐るべき策謀である。しかもそれが林業のためにもならないところが最大の悲劇である。

 また、造林に必要な労働力も不足しており、伐採よりも深刻であろう。植栽後5年間の下刈りやその後もつる切り、除伐などの手入れが必要である。特に真夏の下刈りは、近年の猛暑により過酷を極める。このような労働に従事する人は奇特である。


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