森林・林業の専門家でも9割方が間伐に肯定的だと思う。一般人ならほぼ100%だろう。
私も間伐について否定するつもりは毛頭ない。間伐は森林施業(森林の取り扱い)において、重要なアイテムである。林業の本質は材木という商品を生産するものづくりであって、間伐の方法によって木材の品質を変えることができる。
林業界で有名なのは、かつての吉野林業(奈良県)である。100年の長伐期で1万本/ヘクタール(ha)の超密植で、初期の間伐で足場用の小丸太を、50年前後の間伐で柱材、最後の皆伐では樽丸という酒樽用の板材を主に生産した。初期の造林投資を間伐によって徐々に回収していく、今日の施業体系の手本になる仕組みだった。間伐の繰り返しによって、年輪幅が狭く(1センチに8年輪以上)、均一な幅の木目の木材をつくりだしたのである。
このように間伐の時期、回数、間伐率などによって、生産される木材の品質も変化するので、有能で熱心な森林経営者(篤林家<とくりんか>という)は間伐を重視する。森林施業≒間伐方法と言ってもよいぐらいだ。
林野庁ホームページでの「間伐」の認識
本論を書くに当たって、林野庁の間伐に対する公式見解を参考にしようと思って、ホームページを検索してみた。すると「間伐とは?」(更新日:令和5年3月3日)というありがたいことに最新の見解が見つかった。
ところが、正直言って「ううん……」と唸(うな)りたくなる。私を育ててくれた林野庁の見解について上げ足を取るつもりはないが、あえてコメントさせていただこう。
林野庁:間伐とは、森林の成長に応じて樹木の一部を伐採し、過密となった林内密度を調整する作業です。
私:これは間違ってはいないが、どこか舌足らずで、一般向けとしては分かりにくい。
林野庁:間伐を行うと、光が地表に届くようになり、下層植生の発達が促進され森林の持つ多面的機能が増進します。
私:間伐の目的が下層植生を発達させるためという本質を外した説明となっており、読者に誤解を与える。森林の主役であるはずの林木が、脇役の下層植生に完全に食われている。
林野庁:間伐を行わず過密なままにすると、樹木はお互いの成長を阻害し、形質不良になります。残った樹木が健全に成長することにより木材の価値も高まるため、間伐は大変重要な作業となります。
私:前述の私の見解と不一致。木材の形質に対する認識が甘い。例えば、成長が悪いからこそ、年輪が緻密で美しく、強度が高いものもあるのだ。木材生産の本質をよく考える必要がある。
林野庁: 間伐を実施しなかった場合、森林に対し以下の影響があります。林床に光が差し込まないため暗い。下層植生の消失により土壌が流出しやすくなり、森林の水源涵養機能が低下する。
私:水源涵養機能にはさまざまな因子が影響すると考えられる。基岩や土壌の種類、林木の根系に比べて下層植生の寄与率が高いとは思われない。間伐の効果を示す事例として、下層植生ばかりを強調するのはバランスに欠ける。
林野庁:成長に伴い風を受ける樹冠が上方に移動することにより、もやし状の森林となる。
私:「もやし状の森林」とは何か。林木の自然淘汰とか、単木の個体差である優劣についての認識や観察眼がない(写真1)。