2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2023年5月26日

「商売でやっているから、少しでも安く仕入れ、高く売りたいのは当然。だからみんなが疑心暗鬼になっていた」。金子製材(埼玉県横瀬町)の金子真治社長はこう打ち明ける。

 林業はさまざまな事業者によって成り立っている。例えば、山元といわれる「森林所有者」、丸太を加工する「製材所」、製品流通の一端を担う「プレカット工場」、住宅を建設する「工務店」などだ。

 金子社長は「直接の取引先以外の価格は分かりづらく、ブラックボックスのようだった。そのため事業者同士の関係は希薄だった」と振り返る(25頁Point3参照)。そもそも工務店は、山元にいくら還元されているかを知る由もなく、お互いがリスペクトし合う関係性を構築することはなおさら困難な状況だったということだろう。

 より深刻なのは、今回取材に応じた林業関係者から次のような切実な声が聞こえてきたことだ。「林業専業では食べていけない」「どうすれば生き残れるか不安」「こんなに不安定な産業に身を置いていたら子どもが欲しいとは到底思えない」……。

「住まいとは文化」
〝美〟を追求する工務店

 そうした中で既存の政策に依存せず、〝現場発〟の新たな取り組みを始める改革者たちがいる。

 戸建て住宅の設計や施工などを行う1988年創業の工務店、伊佐ホームズ(東京都世田谷区)の伊佐裕社長は「家とは文化だ。だからお客様の要望に合わせ、意匠性にはとことん拘る。だが、最も肝心な『山元』に還るお金はほんの僅かだった。これに強い危機感と歪みを感じ、会社を起こした」と当時を振り返る。

 2017年には同社が中心となり森林の維持・再生と地域材の活用促進を目的とした新会社・森林パートナーズ(東京都目黒区)を設立した。山元、製材所、プレカット工場、工務店など、住宅を建てる際のサプライチェーンを構成する事業者らが株主となり出資・参画する。目指したのは地域工務店と林業・木材加工業の連携による「6次産業化」の実現だった。

木材の情報はICタグに集約されており、各事業者はスキャンしてデータを管理する(WEDGE)

 同社の小柳雄平社長は「この会社は単なる利益の追求が目的ではなく、理念を共有した流通連携による林業の収益化が目的だ。山元から工務店までの各事業者が透明性を確保し、その信頼関係を基盤に木材や住宅に付加価値をつけてお客様に引き渡す。そして山元にもしっかり還元することで森林を守り続けることを大切にしている」と語る。

 重要な役割を果たすのは「森林再生プラットフォーム」と呼ばれる仕組みだ。これにより、工務店が山元から立木を直接購入すると同時に、1本1本の生産者や伐採日、寸法、強度など木材の情報を事業者全体で共有することが可能になった。商流だけでなく木材流通も含む全てのデータがオープンに共有されているため、コストや納期、在庫の量などが明確になる。

「システム自体の構築も重要だが、より大事にしているのは人と人とをつなげるコーディネート。しっかりと各事業者から意見を吸い上げてシステムに落とし込むことや、毎月1回程度、会議を設定して関係者全員が情報や理念を共有することに力を入れている」(小柳社長)。

 山元として参画する角仲林業(埼玉県秩父市)の山中敬久会長は「工務店の従業員まで顔が見えるのは、1つのグループのようで安心感がある。われわれに還ってくるお金も1・5倍以上になった」と実感を口にする。冒頭の金子社長は「製材所としてのメリットは、繁忙期を避け、需要に応じてまとまった量の丸太が運搬されてくるため製材する計画を立てやすいこと。また、育林に対して真面目な姿勢で整備する山元と取り組むことで品質の良い製品が製材できる」と話す。


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