防災機能について未解明な間伐の効果
間伐によって、残存木の根系(地中の根の広がり)が大きくなることが、土砂流出防止に有効と言われている。しかし、林木の集団は根系を絡み合せて森林の表層を保全しているのであって(写真2)、間伐木の根系の消滅と残存木の根系の発達が防災機能にどのように寄与するのかは不明である。
同じく下層植生がどこまで表土の保全に有効なのか、解明されていない点が多い。
いずれの場合も、間伐にかかる経費に見合った効果(機能の増進)が得られるのか、すなわち費用対効果についても未解明である。
水源涵養機能への効果についても不明点が多いが、森林の蒸散量が流出量と逆相関であることを考慮すれば、鬱閉した森林よりは疎林の方が流出量は多くなる。間伐によって、一時的に流出量が増える可能性はある。
間伐と無間伐で総生産量(主伐量+間伐量)はどちらが多いか、長年研究者の間で論争が続いた。結局、どちらも大して変わらないと、うやむやな決着となった。
ところが京都議定書にもとづく地球温暖化防止のための吸収源対策では、間伐が森林のバイオマス成長を促進させるという政治決着が行われた。そのため算定ルールでは、適時適切に間伐等の手入れを行った人工林のみが吸収量をカウントされることになり、間伐の促進が政策化された。
しかし、この説は科学的根拠が薄弱で内外の多くの研究者が否定的見解を抱いている。私の現場感覚からもずれている。
生物多様性向上に寄与するのか
針葉樹一斉の人工林を間伐して広葉樹が侵入すれば、生物多様性が向上することは間違いない。しかし、日本では針葉樹人工林と広葉樹天然林が面的に入り混じっているのが一般的であるから、生物多様性を目的として間伐をあえて行う必要性は少ないだろう。
間伐は林業において重要な工程の一つだが、一概に「必要」「やらなければならないこと」としてはいけない。何のために行うのかを考えた上で、どのように行うのかを考えなければならない。