後者は、昨年、首都モスクワのロシア正教会聖堂で、プーチンを批判するパフォーマンスを行ない、メンバーのうち3人が逮捕(後、1人は釈放)された女性パンクバンド「プッシー・ライオット」の事件を受けて制定されたものと受け止められているが、宗教信者は同性愛を認めないケースも多く、その両者は連関しているといえる。プッシー・ライオット問題は、人権擁護の立場から、内外の人権擁護団体や国際社会から多くの批判を浴びて来たが、この同性愛に対する弾圧も、同様に大きな批判を浴びている。
外国人も罰則の対象に
「反プロパガンダ法」は、「非伝統的な性的状況」を作ることを狙った情報や同性愛と異性愛の関係が「社会的に同等」であるという「歪んだ理解」を持たせる情報を、未成年者に広めた者に対し、最大5000ルーブル(約1万5000円)の罰金を科すというものだ。
加えて、当局者に対しては、そのような「プロパガンダ」がマスメディアやインターネットを通じて広められた場合、最大20万ルーブル(約60万円)の罰金が科される。外国人に至っては、罰金の対象になるばかりか、最大15日間の身柄拘束および国外退去の処分が科せられる可能性すらあり、団体には、最大100万ルーブル(約300万円)の罰金と、90日間の活動停止処分が科されている。
本法は、人権的観点からの反発を受けているだけでなく、反対派からは罰則に関する定義が曖昧であるため、様々な言論の弾圧に利用される恐れや国内の反同性愛気運を高める可能性があるとして強い反対を受けている。
高まる「ソチ五輪ボイコット」を訴える声
だが、ロシア国内では同性愛者への風当たりは強まるばかりであり、諸外国も反発を強めている。たとえば、米国では、ゲイバー経営者を中心に、ウォッカやキャビアの「不売運動」が広がっている他、 ニューヨークのロシア領事館前では活動家がロシアの「反プロパガンダ法」に抗議する集会も行なった。また、アイスランドの首都・レイキャビクのヨン・ナール市長、同性愛者に対する寛容さが足りないとして、モスクワとの姉妹都市関係を絶つ決定を行なった。
そして、その影響はソチ五輪にも及んでいる。それでなくとも、米英などで、ソチ五輪ボイコットを訴える声も高まっていた中、「反プロパガンダ法」がソチ五輪においても適用されるという危機感が広がり、諸外国のロシアに対する反発がさらに高まったからだ。
ロシアのビタリー・ムトコ・スポーツ観光青年相は同性愛志向の選手の参加を禁止するものではないとしつつも、外国から来た観客や選手であっても、街頭でプロパガンダを始めれば、当然ながら責任を問われることになると述べたのだ。この発言に対しても国際社会から大きな批判が巻き起こったが、ムトコは「スポーツマンなら法律は守ってほしい」と言い切り、火に油を注いだ形だ。