2024年2月27日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年9月21日

 EUの拡大は全体として最も成功した政策と言ってよい。共産主義体制を脱却した中東欧諸国が2000年代に入って加盟を果たしたが、EUの拡大が欧州の広い領域に民主主義に基づく政治的安定と単一市場による経済的繁栄の基盤を提供したことに疑いはない。

 しかし、過去10年、EUの拡大はブリュッセルでは不評であった。ポーランドやハンガリーのような中東欧諸国との間における民主主義と法の支配を巡る軋轢、難民政策や新型コロナウイルス対策を巡る対立など、緊張関係のゆえに「拡大疲れ」というべき状況が生じたことが理由と考えられる。

 それゆえに、生活水準が低く、EUの加盟基準を充たすことが困難視されるバルカン諸国を取り込もうという熱意は消失することとなった。13年にクロアチアが加盟したのを最後に、加盟候補国の地位にありながら、バルカン5カ国は、加盟の展望が開けないまま取り残されることとなった。

 しかし、ロシアのウクライナ侵攻を契機に、地政学的な要請からEUの拡大は新たな局面を迎えることとなった。過去には考えられなかったことであるが、昨年、ウクライナとモルドバは記録的な速さで加盟候補国の地位を与えられた。

 拡大について、10月には欧州委員会の報告が予定されている。10月のグラナダ(スペイン)における非公式なEU首脳会議で議論が予定され、12月のEU首脳会議の議題とされる見込みである。8月28日には、欧州理事会(EU首脳会議)議長シャルル・ミシェルはスロベニアにおける演説で、拡大実現の目標期日を2030年とすることを提唱した。

それでも、加盟手続きは難題続き

 仮に12月のEU首脳会議でウクライナとの加盟交渉の開始が承認されるとすれば、残りの諸国の加盟プロセスも活性化し前進させざるを得ないこととなろう。しかし、加盟プロセスは難事である。

 EUの積み重ねられて来た法の総体系(アキ・コミュノテールと称される)に当該国がそのルールと規制を改革し適合させているかを35の分野毎に欧州委員会が審査することになる。他方、加盟国が27から30を超える数に膨張することが予見される事態となれば、欧州委員会と欧州議会を含むEUの機構のあり方、意思決定のあり方、共通農業政策と地域開発援助スキームのあり方など、大きな改革なくしてはEUが円滑かつ効率的に機能し得ないであろうとの難題がある。

 ミシェルはEUのルールとプログラムに段階を追って漸進的に統合させるという加盟の方式を示唆したが、新規加盟国とEUの双方の都合に合致するその種の工夫もあり得るのかも知れない。

   
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