デジタル化が変える
ライフスタイル
朝起きたらまずスマホを開いて、SNSのメッセージをチェックする。日常的な仕事のコミュニケーションはほぼすべて、メールではなく、このワッツアップで行っている。出勤後は、インスタグラムでニュースチャネルをはじめ、自社が運営するモールや、競合他社のモールのテナントの情報もフォローする。彼女にとってSNSは仕事の必須アイテムだ。
もう一つ、彼女の生活に欠かせないのが、スーパーアプリ、ゴジェックだ。スーパーアプリとは、消費者が日常的に利用するあらゆるサービスを1つのプラットフォーム上にまとめたもので東南アジアでは、マレーシア発シンガポール企業のグラブ、インドネシアのゴジェック(21年EC大手トコペディアと合併しGoToグループと改名)が2強である。両社とも四輪・二輪タクシーの配車アプリとして創業し、サービスを広げた。スーパーアプリは、中国のウィーチャットやアリペイが先駆けのモデルだが、グラブのように複数のサービスを域内で横展開し、各国で高いシェアを得ている例は世界的にも珍しい。
ジャカルタのワーキングマザーの1日に戻ろう。ランチタイムは、ゴジェック上のフードデリバリーGoFoodで、ランチを注文。来週出張のため、空港までのタクシーをGoBluebirdで予約手配する。ランチの後は、買い物代行・宅配サービスGoMartで自宅近所のコンビニのお菓子を注文し、子どもたちのおやつ用に下校時間に合わせて宅配してもらう。子どもが習い事の公文教室を休む時は、宿題は荷物配送サービスGoSendで教室から自宅に届けてもらっている。宅配料は距離によるが、だいたい1回につき1万5000ルピア、140円程度だ。
このようにスーパーアプリは仕事と家庭を支える〝インフラ〟であり、彼女のような利用者にとって、それがないと生活が不便というより、もはや考えられないものとなっている。
一方で、デジタル化による新しいライフスタイルを享受できない人も存在する。インターネットなどの情報通信技術にアクセスできる人口と、アクセスできない人口との間での生活や所得面での格差の拡大、いわゆる「デジタルデバイド」と呼ばれるものだ。これは、地方の農村や遠隔地では高速インターネット網の整備が遅れていることや、通信コストが普及を阻んでいること、あるいはデジタルリテラシーの問題が背景にある。
デジタルデバイドを解決するには、デジタルインフラへの投資、アフォーダビリティーの改善、デジタルリテラシーの向上を含む多面的なアプローチが求められるといえよう。ASEAN地域では、政府、大企業に加えて、多くのスタートアップ企業もデジタルデバイドの改善に取り組む。これらのスタートアップ企業は、遠隔地に住む人々が手頃な価格でデジタルサービスにアクセスできるソリューションや、政府と協力してデジタルリテラシー向上のためのトレーニングプログラムなどを提供している。
ASEANでは、10年頃からスタートアップの起業が活発化し、地域独自の課題やニーズに対応したデジタルサービスの創出に貢献してきた。しかし、22年以降、世界的な高インフレに対する金融引き締めが始まり、ASEANのスタートアップの資金調達にも逆風が吹いている。ASEAN主要国のスタートアップの資金調達額は21年に257億ドルと過去最高を記録した後、22年、23年上半期と前年同期比2桁の減少に落ち込んだ。