2024年11月27日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年10月3日

 トランプは、選挙対策の一環として、米の全ての輸入品への関税を一律10%にすることを側近達と検討しているという。

 上記の社説は、①トランプの対中関税は対中赤字を減らしたと言うよりも他国に移転しただけだ、対中赤字は元の水準に戻った、②トランプ関税は米の消費者に何十億ドルもの不利益を齎した、③トランプの普遍関税10%の提案は消費者に大きなコストを強い、他国からの報復を招くなど米の地政学上の利益を損なう、④トランプの大きな間違いは貿易をゼロサムの演習だと信じていることだ、貿易は相互の利益になるものだと主張する。これらは全て正論である。

 また社説は、貿易収支は成功の判断の有効な指標ではないと述べるが、それもその通りだ。これは日本の対米黒字が問題化し始めた70年代初めに日本が米国に対し常に主張してきたことであり、貿易収支は二国間ではなくグローバルに見ていくべきことだ。

普遍関税10%が与えるもの

 8月中旬、トランプはニュージャージー州の自分のゴルフ場で側近と集まり、好調な経済情勢というバイデンにとり幸運な状況になっている中で如何に選挙戦を戦っていくか、経済について協議、その場で一律10%関税案が出されたという。

 8月17日トランプは、フォックス・ニュースで、全ての国の対米輸出品につき「自動的に」10%関税をかけるべきだと述べた。8月24日、WSJは社説を掲載、それを批判した(「世界貿易戦争を誘うトランプ」と題するこの社説は、トランプが評価する19世紀末のマッキンレー関税やハリソンの相互主義関税等の問題点を指摘する。この社説は読むに値する)。

 それに対し、トランプはWSJに非難書簡を送付、8月30日WSJは同書簡を掲載。その中でトランプは「WSJのグローバリスト達は教訓を学んでいない」、「かつて関税が政府の主要な収入源であり、以て米国を製造王国にした時代と同じようにほとんどの外国製品に簡単で、強力な関税を掛けることが米国の出血を止める最善の方法だ」、「私は真の経済ナショナリズムを信奉する唯一の大統領候補であることを誇りに思う」等と反論した。

 それに対するWSJの再反論が上記の9月6日付け社説である。WSJが本気で論争に挑み、正論を吐いていることを称賛したい。

 トランプの普遍関税10%(全ての国からの全ての品目に10%の関税を賦課する)は、極めて危険で、無謀だ。米国の中でも識者は驚愕し、共和党の一部にも反対があるようだ。

 第一に、米国の消費者(インフレ等)や生産者(不況など)双方に多大なコストをもたらす。因みに今の米国の平均関税率は3%強、対中については約19%。

 第二に、中国がトランプ関税に報復関税をかけたように、他の国は対米報復に出る。第三に、世界貿易機関(WTO)体制を崩壊させる。普遍関税はWTOの土台である譲許の保護、最恵国待遇や内国民待遇等の原則に真っ向から対立する。

 それが実施されれば、世界は大不況になる危険がある。トランプの考えは時代錯誤も甚だしい。

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