9月8日付けウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)の9月6日付け社説‘Trump’s Real Trade Record’が、トランプの関税は対中貿易赤字を削減することにはならず、単にそれを他国に移しただけだと述べるとともに、トランプが検討中の普遍関税10%を厳しく批判している。主要点は次の通り。
2018年にトランプが関税措置を打ち出した後、対中商品貿易赤字がわずかに減少したことは事実だ。しかし、同時にメキシコ等他の国々に対する赤字は増加した。貿易収支は成功の判断の有効な指標ではない。
中国が太平洋で緊張を高める中、サプライチェーンの多様化は米国にとり良いことであり、トランプ関税は間違いなくそれに貢献した。他方でトランプ退任後の中国の行動を見れば、このようなサプライチェーンの多様化は不可避だった。今や米企業は、中国を「投資不可能な国」と言っているとレイモンド商務長官は述べている。
もしトランプの目的がビジネスの友好的な地域への移動であれば、米国の賢明な政策は、中国がいない環太平洋経済連携協定(TPP)に加盟することだった。しかし、トランプはそれから離脱した。TPPは、ベトナム等加盟国の間の貿易促進や企業進出支援を推進したであろう。
関税が消費者に転嫁されたことは明白であり、経済上の証拠がある。トランプ関税は米国民に何十億ドルもの経済上の不利益をもたらした。
問題はこれに留まらない。その後他の国々は報復し、トランプは農業従事者救済のために税金から数十億ドルを支出した。関税による輸入部品や材料価格の上昇のために米企業が突然競争力を失った場合、これらの企業は関税引き上げの適用除外を商務省に嘆願する必要があった。
更に、22年には対中商品貿易赤字が名目で17年とほぼ同水準に戻った。トランプは金属への関税は米国の工場を活性化させると言ったが、雇用はほとんど変わっていない。世界鉄鋼協会によれば、昨年の米粗鋼総生産は17年をやや下回った。
米国のシンクタンク「税金財団」によれば、トランプが言う普遍関税10%は、「米国の消費者の負担を年間3000億ドル以上増加させ、それはバイデン提案に匹敵する増税になる」、予想される報復を含めると「米国経済を1.1%縮小させ、82万5000人以上の米の雇用が脅かされるだろう」。
ベトナム、韓国その他の米国の友好国からの全製品に10%の関税を発動すれば、これらの国々を中国の経済圏に追いやるだろう。それは米国の地政学上の利益とは正反対だ。
トランプの大きな間違いは、貿易をゼロサムの演習だと信じていることだ。しかし、国や企業は相互の利益があるから貿易を行う。米国の消費者が世界市場で衣類やスコッチ・ウイスキーを買い、米国の生産者は大豆やボーイングジェットを売る時、大事なことは双方が利益を得ることだ。