2024年12月10日(火)

都市vs地方 

2023年10月11日

 もちろん、中央省庁の機能であるとか、上場企業の本社機能などに限定すれば、東京への集中が著しいため、東京のみを議論の対象にする必要が出てくるのかもしれない。しかし、その場合でも、その機能を分散させることが解決につながるとは限らない。

政府機能分散の潜在的損失

 例えば、政府機能の一部を大阪に移転したとしても、大阪も十分に大都市であり、そこで大震災が起きれば、間違いなく大きな被害が出ることは阪神・淡路大震災の経験からも明らかである。その他の場所に移転しても、結局移転先が被災してしまえば、機能は失われてしまうため、防災の手段として有効であるかに疑問符がつく。

 また、文化庁の移転の際に問題になったように、他の省庁との意思疎通のための費用が非常に大きくなる可能性もある。省庁間でのやり取りだけでなく、民間企業も中央省庁とのやり取りを必要とするため、政府機能の移転は民間企業への大きな費用負担増加をもたらしかねない。

 人や企業の地理的集中は、取引費用の節約や人的交流を通じたスピルオーバー効果などを通じて意図しないメリット(集積の経済)を生じさせる。人や企業が大都市に集中するのは、集積の経済の利益が大きいからであり、東京への集中を政策で解消することは、その利益を失うことも意味する。

 こうした潜在的な損失をすべて加味して結論が出されているのであればよいが、そうでなければ、思いがけない負担に戸惑うことになってしまう。2022年10月16日の読売新聞オンラインの報道にあるように、文化庁の移転に伴って京都―東京間の出張費4700万円を含む2億3100万円の職員旅費が計上され、この数字が22年度の当初予算額1億5400万円程度と比べ、大きく膨らんだのをみると、意思決定の前に移転に伴い生じる副次的費用が十分考慮されているとはとても考えられない。

バックアップ機能という選択肢

 防災への備えを議論するのであれば、まずは影響を受ける事業者ごとに起こり得る影響を列挙し、複数の手段を比較検討する必要がある。例えば、政府機能の集中と人や企業の集中とは分けて考える必要がある。前者は政策によって場所が決められるが、後者はそうではなく、政策を踏まえて分権的な意思決定を行っているためである。

 政府機能の立地は、機能を分散立地させる方法と、バックアップ機能を作る方法があり得る。

 前者は首都機能移転の議論で言及されているが、先述のように、被災した地域にある機能が失われるという点で備えとして十分か不明であり、民間企業への影響から生じる集積の経済の利益損失も考慮されているとは考えにくい。

 後者は、首都機能を持つ場所をもう一つバックアップとして作るため、複数の場所が同時に被災しない限り、機能が失われる事態を避けることができる。また、首都機能に近くなる地域は生じても、遠ざかる地域は原則として生じないため、人や企業への影響も最小限で済む。

 もちろん、同じ機能を2カ所に持つということは、平時においては行政の非効率を生む可能性がある。その費用と災害リスクから予想される損失とを天秤にかけて、注意深く吟味する必要がある。

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