2024年12月2日(月)

経済の常識 VS 政策の非常識

2013年11月4日

 ローマー=ローマー論文を、私が一言で要約すれば、「言ってた通りにやっちゃった」である。デフレは良いことであるとか、金融政策ではデフレから脱却できないと言っていた総裁を選んでデフレから脱却できるはずがない。黒田総裁は、デフレは金融政策の問題であると明確に述べていた。そして、言っていた通りになる可能性が高い。今年6月の消費者物価指数(生鮮食品除く)は1年2カ月ぶりにプラスに転じ、7月もプラスであった。

政策実現のために
人事権の行使は当然

 安倍晋三首相が黒田総裁を選んだ経緯は異例である。これまでは、財務官僚と日銀官僚が談合してなんとなく決めていた。決められた人が何を考えているのか、何をするのかが議論されたことはほとんどなかった。安倍首相になって初めて、日銀総裁という重要な公職にある人が何を考えているのかを問題にしたのだ。首相がデフレ脱却を目指していたから、それを実行すると言っていた人を総裁に指名し、その通り、デフレ脱却を果たせそうである。

 首相が自分の政策を実現するために人事権を用いるのは当然である。法制局長官に集団的自衛権の行使容認に前向きとされる外務官僚の小松一郎氏を指名したのは、これまでの憲法解釈を見直そうという首相の考えを体現したものだろう。

 首相があらかじめ国民に自分の考えを示さず、自分のしたいことを人事権を通じてこっそり行うのは代議制民主主義の根本から考えておかしいと私は思う。しかし、デフレ脱却も憲法解釈の変更も、首相が国民に必要性を訴えてきたことである。民主主義の手続きに則っている。

 行政機構の中で首相の権限を強めることが権力分散の精神と対立すると考える人は誤解をしている。権力の集中を排し、国民の自由を守るのは、議会と裁判所と野党と言論・結社・集会の自由の役割である。派閥や官僚組織の抵抗が国民の自由を守ると考えるのは、奇妙な権力分散論だ。

 これまで公職に就く人の大部分は、今まで通りにするから安心して下さいという以上の何の考えもなかった。そして、今まで通りやるとは、今までの利害関係者を困らせることはないから大丈夫という以外の何の意味もなかった。しかし、それではやっていけないから変えなければならないのである。他にも、原子力規制委員会、公正取引委員会、金融庁、消費者庁、日本年金機構のトップなども、政治的に何をしたいかのアピールを示す公職だろう。首相の思いを公職に就く人に託して、日本を変えることが必要なのではないか。

◆WEDGE2013年10月号より










 

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