日本の女性は貪欲な仕事に就くべきか
すると、日本のジェンダーギャップを縮小するためには、女性が貪欲な仕事に従事することが必要なのだろうか。
筆者は、日本には不必要に貪欲な仕事が多すぎるのではないかと思う。例えば、国会議員による政府側への質問通告について、「土日祝日を除く質疑2日前の正午までに通告する」と与野党の申し合わせがあるが、守られていない。守らせるためには、閣僚が「事前に通告されず、事実関係を確認する時間がなかったので答えられない」と言えばすむことである。
もちろん、ウクライナ情勢やパレスチナ情勢は刻々と変わるのだから、「急に質問するな」というわけにはいかない。しかし、国会議事録を見ると、別に緊急を要する訳でもない質問がいくらでもある。また、急を要する質問にも実は答えていないことも多い。
ウクライナ戦争やパレスチナ問題を日本が解決できる訳でもないのだから、答えようもないことが多いだろう。答えているふりをする答えを作成するために残業するのも無駄である。
知人や筆者の大学の学生と話していて、男女格差が生じるのは、男性が「汚れ仕事」と呼ばれるようなことをしているからだという人が多い。しかし、その汚れ仕事が本当の企業の利益になっているのか、誰も分からない。汚れ仕事がばれなければしばらくは利益となっているのかもしれないが、ばれてしまえば大損失である。しかも、ばれていなくても利益となっているのか分からない。
例えば、昔、銀行や証券会社にMOF担という仕事があって、大蔵省の銀行局、証券局に日参して情報提供したり情報収集したりする仕事があった。そのうち、重要なのは、銀行局の検査が抜き打ちで銀行に「入検」する日を当てることだった。
情報を入手し、検査着手日と臨検対象支店をぴたり当てるのが腕の見せ所であった、という(高橋温「私の履歴書」第16回、日本経済新聞2023年10月17日)。抜き打ちで検査する建前のものを事前に当てるのは貪欲な仕事だと思うが、それにより、銀行はバブルの時代、いくらでも不良債権を作り、金融危機は防げなかった。おそらく、検査対象銀行にとってあまりに手間入りだから、事前に情報を得ようとしていたのだと思う。だが、検査項目を軽減して本当に抜き打ちでやればお互い仕事が減り、銀行の不正を見抜く力も落ちないだろう。
もちろん、現在の日本でも、こんな仕事は減っているが、それでもまだまだ残っている。こういう仕事を減らせば、女性が上級の管理職に進出しやすくなるだけでなく、社会全体の効率が高まる。これが、私がゴールディン教授に学んだことである。
クラウディア・ゴールディン著、鹿田昌美訳『なぜ男女の賃金に格差があるのか:女性の生き方の経済学』 慶応義塾大学出版会、2023年
The Royal Swedish Academy of Sciences has decided to award the Sveriges Riksbank Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobel 2023 to Claudia Goldin,“for having advanced our understanding of women’s labour market outcomes”.