2024年11月21日(木)

経済の常識 VS 政策の非常識

2023年7月20日

 政府は、異次元の少子化対策を行うと議論していたが、出てきたものは子育て支援の給付や育児休業体制の強化といったものが中心となっている。働く女性に対する視点が欠けているのではないだろうか。

(monzenmachi/gettyimages)

 少子化対策の具体策をまとめた「こども未来戦略方針」の主な内容は、①児童手当などの拡充(児童手当の所得制限の撤廃、手当額の第2子、第3子以上への引上げなど〈3歳未満は月1.5万円、3歳から高校生までは1万円、第3子以降は年齢にかかわらず3万円〉)、②学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充、親が就労していなくても、子どもを保育所などに預けられる制度の導入、③働き方改革(男性の育児休業取得の促進、両親とも育休を取得した場合、最長4週間、手取りの収入が変わらないよう育児休業給付の給付率の引上げ、選択的週休3日制度の普及)、④理系や多子世帯の学生などについては、高等教育授業料の減免や給付型の奨学金の対象を広げるなどだ(内閣官房「こども未来戦略方針」2023年6月13日 。「児童手当や育児休業給付拡充など「こども未来戦略方針」決定」NHKニュース2023年6月13日)。

子どもが生まれないのはコストが高すぎるから

 筆者は、子どもが生まれないのは、女性または家計にとって子育てのコストが高すぎるからだと思う。そのコストには、もちろん、養育費や教育費があるが、子どもを育てるために女性が仕事を辞めなければならないというコストだ。

 図1は、女性の平均年収を示したものだ。生涯年収は、高卒の場合で1.7憶円、大卒の場合で2.4億円になる(図には60歳以上、70歳以上の人の年収も書いてあるが、実際に働く人は少なくなるので生涯年収はこれより多少低いかもしれない)。

(出所)厚生労働省「賃金構造基本統計調査(2022年)」第2表年齢階級、勤続年数階級別所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額 (注)年収は所定内給与額×12+年間賞与その他特別給与額。 写真を拡大

 子どもを産み育てるために仕事を辞めなければならないとすると、この期間の収入が得られない。この期間を30歳から34歳までとするとその期間に失われる収入は、高卒で1500万円、大卒で2100万円になる。

 しかも、失われる収入はこれだけではない。その後で元の職場に戻れず、多くはパートで働くことになる。すると、扶養対象者に保険料支払いが発生する年収の壁130万円以下で働くことが通常となる。

 この場合の34歳以降の年収の差の累計は高卒で6900万円、大卒で1億3800万円となる。子どもを持たずに働き続けた場合に比べると、高卒で8400万円(1500万+6900万)、大卒で1億5900万円(1億3800万+2100万)の減収となる。この減収分が子育てのコストである。


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