中国は、体制の違いが存在するのは、個別の国家と国民がそれぞれの社会と文化に基づいて選択した結果であり、領域をどのように描き確保するかもナショナリズムの歴史の産物である以上、それはそれとして互いに尊重し、難しい条件を問わず、まずは協力を深めることが世界平和の礎であると考える。
そして中国は、ある一国や勢力が国際社会の行方を左右する状況こそが世界平和を阻害する以上、それは解消されるべきと主張する。同時にある一定の範囲で、地域大国や欧州連合(EU)のような多国間枠組みとして立ち現れる「極」が存在するのも否定できないことから、これらの「極」が互いの違いを認めて相互理解を深めつつ経済・文化的な交流に努め、さまざまな意見をグローバル・ガバナンスに反映させることが「国際社会の民主化」であると考える。
そこで中国は、中国人民が中国共産党中心の体制を歴史的に選択して今日の大国を築き上げ、世界経済を主導する立場となったことを認め、中国が形成した領域・主権(台湾・香港・新疆・チベットを含む)を尊重する国家に対し、中国自身もその独立・主権・体制を積極的に認めることで、Win-Winの二国間運命共同体関係を構築するのだという。
これら個別の二国間関係を中国主導のインフラによって大いに結びつけることで、個別の国ごとの国益に基づく発展戦略と中国の国益を連結させ、これまでの西側・ソ連主導ではなし得なかった真の国際平和とグローバル経済の一体化を構築する……。これこそが、「平和共存五原則」から一帯一路へと結実した中国の対外姿勢の本質なのだと説く。
中国主導の「多極化世界」
それはまさに、伝統的な中華世界の21世紀における再現である。黄河文明が興って以来、「中華」の側が文明を共有しない人々を「夷狄」と呼び差別したことは事実であるが、それは必ずしもこの文明の性格の全てではない。
ゆくゆくは「華」と「夷」、「中」と「外」を合わせて「天下」の「大同」を実現できれば良いものの、当面その条件は揃わないことから、歴代王朝は中華の「徳」を感じ恩恵に与ることを望む「外」の人々との間で「礼」に基づく関係=上下主従関係を結び、彼らを気前よく朝貢貿易の利益に浴させて恩恵を感じさせることで、異なる文化や国々との平和共存を実現しようとした。
さる9月26日、一帯一路サミットを控えて王毅外相が行った「人類運命共同体構築に関する中国のイニシアチブと行動」白書発表会での発言、及び10月18日の「中国とインドネシアの全面戦略パートナーシップ深化に関する共同声明」では、中国の一帯一路外交は「天下為公」「協和万邦」「敦親睦隣」「和而不同」といった精神の現れと自画自賛する。そして、中国は既に西側中心の近現代とは異なる道を歩み始めており、ゼロサム・ゲームによる伝統的な国際関係を揚棄し、中国と個別の国々との運命共同体を集大成して「人類運命共同体」を構築しつつあると改めて強調する。
インドネシアが少なくとも独自の多角化外交で国益を追求し、完全に西側と立場を同じくするわけではないことは、それ自体が中国主導の「多極化世界」の姿に完全に親和的ということになり、プーチン・ロシアに次いで(あるいはロシアの没落ゆえ、それ以上に)中国にとって心強く、さらに積極的に関係を強める価値があるということになる。だからこそジョコ・ウィドド大統領は、一帯一路サミット首脳会議の入場の場面で、習近平とともに先頭を歩き、記念撮影の場で習近平氏・プーチンに次いで中央に収まる栄誉を与えられたのであった。
また、恐らく中国側の計らいであろうか、ジョコ・ウィドド氏がプーチンと抱し笑顔で言葉を交わす光景もあった。インドネシア大統領府が発表した公式動画もある。