2024年5月20日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年11月1日

まだまだ日本とインドネシアの関係は深い

 しかし、このような光景に果たして真に持続性や道徳性はあるのか。そもそも一帯一路における中国の「徳」「恩恵」といったものは、もっぱら経済的に示されるものであり、体制の違いを全く問わずに中国への尊重や尊敬を示せば良いものだけである。そこで、もしこの前提やバランスが崩れれば、共通の規範によって律せられていない関係はただちに揺らぐことになろう。

 インドネシアについて言えば、ナトゥナ諸島をめぐる問題は潜在的な引き金になりうるし、イスラム的な規範を尊ぶ雰囲気が経済発展を通じて強まる中、世界中のイスラム教徒が置かれた環境がより広く知られるにつれ、インドネシアの世論も大きく変わり得る。目下、ガザ地区の混迷をめぐって世界中がイスラエル支持かハマス支持かで揺れる中、一部の国々はハマスを支持する傾向を強め、中国とロシアも反米を掲げ西側諸国の関心をウクライナから分散させる意図もあってか、「パレスチナ人民の自主」に肩入れしている。しかしもし今後何らかのきっかけで、中国内のイスラム教徒弾圧の実情がより広く知られるとすれば、少なくとも中国との協調は道徳的に問題あるものと強く意識されることになろう。

 このようにさまざまな可能性をはらんだ混沌の現実がある中、高速鉄道の一件におけるインドネシアの判断ゆえに、日本の一部ネット上で反インドネシア感情が続いていることは誠に近視眼的というより他はない。インドネシアの個別の政治家にさまざまな判断があるにせよ、総体として日本とインドネシアの関係は密接であるし、日本の技術に対する信頼も今のところ厚い。

日本が全面的にバックアップした新線・ジャカルタMRTの日本車両・豊川工場製電車

 国際関係においては全ての国・地域がそれぞれの歴史を踏まえて国益を追求しているということを前提として、日本自身のリノベーションを進めて技術と社会・文化の質を磨き、複合・重層的な関係を構築することが、中国一辺倒ではない多国間協力に基づく豊かなアジア太平洋地域を創るのではないか。

※インドネシアの鉄道事情見聞においては、『インドネシア鉄道の旅』著者である古賀俊行氏、ならびにアジアン鉄道ライター・高木聡氏に大変お世話になっており、この場を借りて心よりお礼申し上げます。

中国について、さまざまな視点から伝える連載「チャイナ・ウォッチャーの視点」の記事はこちら

   
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