2024年11月26日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年11月13日

 しかし、今回の米軍の報復爆撃がシリアにいるイランの代理勢力に対する初めての反撃ではない。2017年以降、シリアではシリアにある米軍の拠点に対するイランの代理勢力による攻撃が起きており、それに対する米軍の報復爆撃等も行われている。

 したがって今回の米軍の報復でシリアにおける米国とイランの緊張対立のステップが一段階上がったわけではない。バイデン政権は、反撃を抑制する政策を転換してはいないだろう。

 イランはハマスのイスラエル奇襲でイスラエルとサウジアラビアの国交樹立を阻止したことで十分利益を得ており、本気でイスラエル・米国と対峙するつもりは無いだろう。

 では、なぜ今イランが代理勢力を使って緊張を高めるのかと言えば、(1)1979年のイスラム革命以後、パレスチナ人の権利回復はイランの首尾一貫した立場であり、今回の出来事でパレスチナ人(ハマス)を見捨てる訳にはいかない。(2)イランは、米軍の中東からの撤退に代わって域内の覇権を確立したいと望んでおり、この機会にペルシャ湾岸のアラブ産油国を恫喝するというところではないか。

危険なイランの米国への刺激

 ここでイランの代理勢力を概観しておこう。(1)ヒズボラは、レバノンのシーア派の組織で、イランにとりイランのイスラム革命を支持している唯一の団体であり、その存続は、イスラム革命の正統性(イスラム革命のイデオロギーの普遍性)を保証するという意味でイランにとり非常に重要な存在である。

 (2)今回、イスラエルに向けて巡航ミサイルやドローンで攻撃を行っているホーシー派は、イエメンの反政府勢力で、イランはサウジやアラブ首長国連邦(UAE)を牽制するためにホーシー派を支援している。15年にサウジとUAEがイエメン内戦に介入すると、両国に対してイランが供与した弾道ミサイル、巡航ミサイル、ドローン攻撃を行い、両国に撤退を強いている。

 (3)シリアのイラン系民兵は、ヒズボラへの補給ルート維持のために内戦で劣勢となったアサド政権支援のために、イランがシーア派のパキスタン人やアフガン人の傭兵を派遣したもので、しばしば、シリア領内の米軍を攻撃している。

 (4)イラクのイラン系民兵は、イラク人シーア派の親イラン勢力で過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いで勢力を拡大したが、これまでにも散発的にイラク領内の米軍を攻撃している。2020年、革命防衛隊のソレイマニ司令官がイラクで米軍に暗殺された際、一緒にいた民兵組織の指導者も殺されていて、米軍に対する恨みは深い。

 (5)ハマスとパレスチナ・イスラム聖戦は、スンニー派の組織だが、やはり、「敵の敵は味方」でイランが支援している。

 問題は、イランが「寸止め」のつもりでも、米軍に大量の死者が出てしまう等、想定外の事態が起きることだ。その場合、米軍の大規模報復もあり得る。やはり、イランは危険なゲームをしていると言わざるを得ない。

「特集:中東動乱 イスラエル・ハマス衝突」の記事はこちら
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