グラハム氏は、米国が従来ロシアの「戦略的自己主張」に抵抗してきたという。米国は多くの場合、ロシアの政策には反対してきたのだ。
ロシアの残忍なウクライナへの侵攻で米国の敵対意識は一層強まった。だから普通なら、米国は侵略国ロシアを簡単には許せないはずだ。しかし、今日的な脈絡の中では、米国や西側諸国はいわば「ロシアに対して度量を示せ」とグラハム氏は論じていると筆者は考える。
曲折はあっても、ロシアを西側に引き入れ、専制的な中国に対峙していく方が大事だ。西側はそういうアプローチを取るべきだ。するとロシアは「戦略的自己主張」の立場から西側の誘いに乗ってくるだろう。そういう思想のようだ。当然のことだが、ウクライナ侵略を決めたロシアの指導層の責任と残虐行為への処罰は国際法に従って厳正に行われなければならない。
ロシアが変われば……
要するに米欧はウクライナ戦争でロシアと戦いつつも、将来を見据えて時宜が来たらモスクワに働きかけをするべきだ。ウクライナで終戦が実現したら特にそうだ。
西側はロシアと共同作業をする。上手く行けば、今度こそロシア人が自分の国を変える。あの国が新しい自由と機会を手にする。この戦略が成功すると、ユーラシア全土に全く新しい地政学的現実を生み出すことが可能になる。
しかし筆者を含めどの観察者にとっても、ウクライナ戦争が継続している今日、このような議論は夢物語に見える。ロシアが現在のような専制的強権の下でエリート層の恣意と治安組織の鉄拳によって統治されている今日、この展開は夢物語だ。
それにロシアが欧米との協力に向かって舵を切ることなどあり得ないという議論もある。しかしあの国の市民の大多数は新しいロシアを希求しているはずだ。
欧米社会は機を逸することなくロシア人と対話を始めるべきである。これが数十年にわたりロシアを研究してきたグラハム氏の結論であるようだ。
実際のところ、ロシアは歴史的な岐路に立っている。プーチン大統領と同系統の後任者が国を支配するのか? 国内では専制独裁、対外的には好戦的な生き方がこれからも続くのか? それとも国内的には専制独裁だが、国際的には武力侵略はしない平和国家を目指すのか? それとも大幅に民主的な統治機構を構築し、平和国家を目指すのか?
ロシアは選択をしなければならない。私見では、ロシアは国内政治体制が専制独裁であっても人権の保護などがある程度確保され、同時に、ここが重要なところだが、外国に武力侵略や武力による威嚇等をしない国になれば、欧米社会と新しい関係を作り上げることが出来るはずだ。欧米社会と幅広い協力関係が構築されるに違いない。