ひとたびロシアが欧米社会に受け入れられたら、あらゆる発展と展開が可能になる。可能性が俄然広がる。欧米との関係改善がロシアに有形無形の利益を生む。数多の物語が始まる。
欧米の高等教育機関はロシアの青年に広く開放される。ロシアの青年の眼前にはこれまで経験したことが無いような可能性が広がる。ロシアの優れた知的財産は欧米世界で花開く。経済面や社会制度の面でも。
以上のような前向きな展開の中で、西側はロシアの領土保全を概ね保障する。ロシアを大国として遇する。
一方ロシアは外国への武力侵略はしないと約束する。ここまで行けばロシアは欧米社会で名誉ある地位を占めることになる。こうなるとユーラシアは全く新しい地政学的環境に入る。
厳しい時代こそ持つべき良質の仮説
最後に付言すれば、ロシアの平和的な変身の効果は広範囲に及ぶ。ユーラシアの安全保障の構図は根本的に変化する。リスボンからモスクワ、ウラル、シベリアから北米大陸に及ぶ自由圏の巨大な帯が生まれる。欧米がロシアを身内に取り込まなければ中国がロシアを身内にする。そしてこの帯を遮断する。
それからロシアが武力侵略を事としない国になれば、北大西洋条約機構(NATO)諸国は軍備強化の出費を民生等に振り向けることができる。そうでなければ、どの国も財政難の中で軍備費を増やす必要が出てしまう。ロシアの変身はペイするのだ。
もとより国際関係はおよそ予定通りにはいかない。でも仮説がなければ何事も始まらない。グラハム氏は良質の仮説を提供していると思われる。
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