2024年7月16日(火)

WEDGE REPORT

2023年12月1日

 立て続けに発生した事件をみる限り、主要輸送路である紅海付近が不安定化の様相を呈している。なお、この他にもイスラエルの海運会社ZIMが運航するコンテナ船「Zim Luanda」(マルタ船籍、2009年竣工)がイスラエルから中国に向かう途上で拿捕されたとの未確認情報もある。

フーシ派の主張とイランとの関係

 「Galaxy Leader」拿捕事件後、フーシ派は、シオニストの敵(注:イスラエル)の協力者は正当な標的と考えられる、バブ・アルマンデブ海峡はレッドラインである、イスラエルと関連する如何なる民間商船や軍船も正当な標的となり得るとの立場を示した

 SNS上では、フーシ派がヘリコプターで「Galaxy Leader」に乗り込み拿捕した時とおぼしき映像が流れた他、11月26日には、『マナールTV』(レバノンのヒズボラが運営)が、同船舶での現場取材に基づく映像を公開した。同映像において、「Galaxy Leader」上のイエメン人は、「パレスチナの兄弟を護るため、イスラエルと関係のある全ての船に罰を与える」と叫んでいる

 つまり、フーシ派は、パレスチナに入植・占領し、ムスリムの同胞であるパレスチナ人民を激しい攻撃で苦しめるイスラエルを敵視しており、イスラエルと関係するあらゆる船舶を攻撃する意思を有するということだ。この点において、運航主体が海外の船社であるか否かを問わず、船舶にイスラエルとの関係が少しでもあれば標的にされる危険性がある。

 なお、フーシ派は、10月中旬より「イスラエルの武力行使が続く限り、ミサイルとドローンを用いた攻撃を継続する」との立場の下、イスラエルおよび米国権益に対するミサイル・ドローン攻撃を実行してきた経緯がある。

 イスラエルに対する攻撃を激化させるフーシ派だが、同派を背後から支援しているのがイランではないかといわれている。ただし、フーシ派とイランの関係は複雑だ。

 イラン現体制は、反米・反イスラエルをいわば国是として掲げており、イスラエルへの「前方抑止」の考えの下で、「抵抗の枢軸」と呼ばれる非国家主体ネットワークを築いてきた。「抵抗の枢軸」を統率するのは、革命防衛隊の中で対外諜報・工作を担うゴドス部隊で、レバノンのヒズボラ、シリアで活動するファーテミユーン旅団(アフガニスタン人主体)やザイナビユーン旅団(パキスタン人主体)、イラクのシーア派民兵、パレスチナのハマスやイスラーム聖戦などと連携しているといわれる。

 留意すべきは、イランと各非国家主体との関係が一様ではない点だ。例えば、ヒズボラはレバノン議会に議員を輩出するなどレバノン国内に根を張った自律性の高い組織だが、ファーテミユーン旅団などは革命防衛隊ゴドス部隊がなければ活動し得ない、なかば従属した組織である。

 フーシ派はイエメン内戦が激化する前後の2014年頃から、イランとの政治・軍事・経済的結びつきを深めていった。この背景には、フーシ派が信仰するザイド派がシーア派の一派であるとの宗派的つながりもさることながら、イエメンのハーディー元大統領を支援するサウジアラビア・アラブ首長国連邦(UAE)連合軍に対抗するためという政治的動機が指摘できる。


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