日本の明確な脅威となった中国
尖閣での対立は現在に至るまで激しさを増して続いているが、この間、17年の中国共産党大会で、習近平国家主席が「2049年(建国100年)に中華民族の偉大なる復興の夢を実現する」と宣言して以降、中国は「戦狼外交」と称される強硬姿勢と躊躇ない実力行使によって、国際秩序の現状変更に挑み続けている。
その一端は昨年7月、中国海警局の巡視船2隻が尖閣諸島の領海に64時間にわたって侵入し、翌8月には、米国の下院議長の訪台に反発、台湾周辺海域に弾道ミサイルを発射し、そのうちの5発を沖縄・先島諸島周辺に広がる日本の排他的経済水域(EEZ)を標的に着弾させたことだ。
しかも、ロシアとの軍事連携を強化する中国は、ロシアがウクライナを侵略して以降、その姿勢を強め、中露の爆撃機による日本周回飛行に加え、露軍の大規模軍事演習(ボストーク2022)に中国は陸海空軍を初参加させ、北海道西方沖に日本海で機銃掃射などの訓練を実施している。こうした中国の日本に対する威圧の直後に行われたのが、昨年11月に訪問先のタイで行われた日中首脳会談だった。習主席に対し岸田文雄首相は「重大な懸念」を表明したが、今回の首脳会談と同様に、中国を巡るさまざまな懸案は何ひとつ前進しなかった。
この直後、政府は国家安全保障戦略など戦略3文書を改定し、中国を事実上の脅威と位置づけ、「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と明記。さらに「我が国の総合的な国力と同盟国・同志国等の連携により対応する」と表記して、対中姿勢を鮮明にした。
日中間で拡大し続ける対立局面
対中姿勢を強めた日本に対し、中国は昨年12月、沖縄南方の西太平洋で、空母「遼寧」と3隻のミサイル駆逐艦を出動させ、南西諸島への攻撃を想定した打撃訓練を実施。防衛省によると、空母艦載機の発着艦は320回に達したという。常軌を逸したレベルだが、ロシアとの連携も強化し、中露は今年7月、両国海軍による合同パトロールを実施、太平洋沿岸から時計回りに日本列島を周回した10隻の中露艦隊が、島根県沖の日本海で射撃訓練を行っている。
挑発はこれだけではない。尖閣諸島を巡って中国海警局は2月、「中国の領海に不法侵入した日本漁船を退去させた」と公表、7月には日本に無断で、同諸島沖のEEZ内に潮流などを観測するブイを設置した。あたかも中国が同諸島周辺海域を管理しているという虚偽の既成事実を積み重ねようとしている。
これら安全保障での対立に加え、中国は3月、日本の製薬会社の現地法人幹部をスパイ容疑で拘束(10月に逮捕)したほか、国際原子力機関(IAEA)が安全性を検証したにもかかわらず、東京電力福島第1原発からの処理水の海洋放出に反対し、日本産海産物の輸入を全面的に停止し、処理水を「核汚染水」と呼び、日本を非難し続けている。
今回、安全保障に加え、経済と環境など対立するジャンルが拡大する中で行われた首脳会談だったが、習近平国家主席は「戦略的互恵関係の位置付けを再確認し、新たな意味合いを持たせ、新時代の要求を満たす中日関係の構築に尽力すべきだ」と注文を付けた。そして、外相会談で王毅共産党政治局員兼外相は、処理水問題を持ち出し、中国に独自のモニタリング調査をさせるよう要求した。
中国・武漢で初確認されたコロナウイルスによる新型肺炎を巡って、中国は発生源を巡る国連機関や主要国等の調査要請を一切拒否し続けてきたにもかかわらず、日本に対し独自調査を求めるなど厚顔無恥も甚だしい限りだ。上川陽子外相には、中国の弱みであるコロナウイルスの発生源調査を持ち出し、皮肉を交えて反論してほしかった。