12月12日、13日に行われた中越首脳会談の共同声明には、両国は「運命共同体」ではなく、「未来を共有する共同体」の構築に向けて、関係を強化する、と記載されている。これは妥協のフレーズであろう。また、政治・安全保障、経済・貿易、デジタル改革等の幅広い分野での協力を含む36文書が合意された。
今年、米中両国の首脳が訪問した唯一の国がベトナムとなり、現下の国際情勢下における「ベトナムの戦略的重要性」を世界に示すこととなった。習にとっては、国の内外情勢が厳しくなる中、ベトナムおよび日米に対する牽制のみならず、中国国内への宣伝になったとも思われる。
ベトナムは「一帯一路」やアジアインフラ投資銀行(AIIB)の加盟国である。ただし、これまでAIIBから融資(2件)を受けたことはあるものの、「一帯一路」で具体的プロジェクトを作ることは、安全保障上の観点から意図的に回避してきている。今回の首脳合意が具体的プロジェクトに繋がるか否か、注目される。
ベトナムが立ち位置を明確にする時
なお、習近平氏の訪越に先立ち、ベトナムは9月から11月にかけて日米との二国間関係を「包括的戦略的パートナーシップ」へ格上げし、安全保障分野の協力強化に加え、半導体やレアアース開発における協力も合意した。米企業および中国企業のベトナムへの投資は増加している。米国の製造業者はベトナムを、低コストでリスクの少ない中国の代替となる選択肢と考え始めているようだ。
論説の末尾にある「それがどれほど持続可能であるかは、また別の問題である」との一節は意味深長である。
その意味するところは、米中の「にらみ合い」が続いていれば、ベトナムは中米間でバランスを取り続ける「バンブー外交」が可能であろうが、中国の攻撃的姿勢に劇的変化がない限り、いずれ南シナ海や東シナ海、台湾周辺地域で米国を巻き込んだ武力紛争が発生する危険が十分ありえ、その場合、ベトナムは自ずと「立ち位置」を明確にせざるを得なくなる、ということであろう。
実際、南シナ海における中国とフィリピンの対立激化、米国による対比軍事支援明確化と中国の強い反発、尖閣海域における中国船の領海侵犯の増加、習氏による尖閣を管轄する海警局訪問と激励、中国機による頻繁な台湾海峡中間線侵犯、台湾総統選挙に向けた中国による偽情報の流布など、最近、中国は東アジア地域の既存秩序を変更しようとする動きを一層強化している。要注意である。
中国とベトナムは、共産党統治という形式こそ同じだが、統治内容は大きく異なる。また、ベトナムは、中国による経済的便益や脅しにも、武力脅迫にも屈しない、中国にとり「厄介な国」である。ベトナム国民の「対中警戒感と国防意識」も非常に強く、国民は、党や政府の対中政策の動きを注視しているし、指導者もその点は熟知して行動している。