2024年11月22日(金)

キーワードから学ぶアメリカ

2024年1月13日

予備選挙か全国党大会を選択

 時期を遡って、各党の大統領候補、副大統領候補を決める全国党大会に目を向けよう。

 全国党大会は政党ごとに行われるが、その参加者は各州から選ばれた代議員が中心である(それに、大統領経験者や連邦議会議員経験者などが加わる)。全国党大会では選挙綱領が発表される。これは正副大統領候補が国民に対して発表する選挙公約という側面があるが、各州の代議員、そしてその背後にある各州の政党組織が団結可能になるための条件を相互に入れて作る、政党の内部文書としての側面もある。

 大統領候補を選ぶ際には、各州で予備選挙や党員集会が行われる(日本では党員集会も含めて予備選挙ということが多い)。予備選挙は一般の選挙と同様に、有資格者が投票所で意中の候補に投票するものである。

 その投票権の範囲は州によって異なり、有権者登録時に登録した政党の予備選挙にのみ投票可能な州もあれば、それ以外の政党にも投票することが認められている州もある。他方、党員集会は地区ごとに党員らが集まり、討論や挙手、投票などを繰り返して候補を1人に絞る方式である。候補の具体的な絞り方は、州や地域によってそれぞれ定めることになっているため、地域ごとに微妙な違いがあるのが興味深いといえる。

 予備選挙や党員集会が始まった時には複数の候補がおり、それが徐々に脱落していって、最終的に一人の候補となるのが一般的である。その結果、最終的に残った候補とは違う候補を推すと決めていた州は、最終的に残った候補を党の候補として認めるための条件を提示し、それを可能な限り選挙綱領に組み込むことで党の団結を図るという位置づけである。

 全国党大会には、各州、そして非州地域から代議員が派遣される(非州地域の住民は11月の選挙では投票権を持たないが、全国党大会には代議員を派遣する)。この代議員の人数は一律に決まっているわけではなく、選挙ごとに連邦の政党本部が、州の人口や、最近の選挙で各州が最終的な勝敗にどのような影響を及ぼしたのかを勘案して決定する。ただし、それぞれの州に割り当てられた代議員を誰にするのかについては、各州の政党本部が自由に決めることになっている。

 また代議員を選ぶ方式として、予備選挙にするか党員集会にするか、各候補に対応する代議員の数を人口比例で割り当てるのか、勝者総取りにするのかについても、州の政党組織が決めることになっている。党員集会は拘束時間が長いこともあり、近年は参加しやすい予備選に切り替える州が増えている。

候補者決定に影響を与えることも

 実は予備選挙にするか党員集会にするかが候補の決定に大きな影響を与える可能性もあり、例えば2008年大統領選挙時の民主党については、党員集会方式を採用したところではバラク・オバマが、予備選挙方式を採用したところではヒラリー・クリントンが優位した。これは、党員集会では錚々たる経歴を誇るクリントンを批判するのが容易な一方で、黒人のオバマを批判するのが難しかったのではないかと指摘されている。

 また、「女性は大統領に向かない」と公言していた人が、人の目につかない予備選挙ではクリントンに投票したのではないかともいわれている。このような決定にも、連邦制の影響が及んでいるのが興味深いといえるだろう。

 以上の説明からもわかるように、米国の大統領選挙の仕組みは非常に複雑だが、その背景には連邦制との関係があることがわかるだろう。連邦の選挙であるにもかかわらず州にさまざまな決定を委ねているところが米国政治の興味深い特徴なのである。

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