2024年5月16日(木)

バイデンのアメリカ

2024年1月22日

バイデン政権も軌道修正

 こうした状況にもかかわらず、バイデン政権がこれまでネタニヤフ政権支持を貫いてきた背景のひとつとして、在米ユダヤ人勢力の存在があることは言うまでもない。今日、ユダヤ系米国人は約750万人で全人口に占める割合も2%程度と数こそ少ないものの、政財界、マスコミへの隠然たる影響力を保持している。

 そればかりか、在米ユダヤ人たちの政党支持率では、共和党26%に対し、民主党64%と、圧倒的に民主党支持が上回っている(2020年Pew Researchデータ)。そして実際に、2020年米大統領選ではユダヤ系有権者10人中7人がバイデン候補支持に回ったといわれることなども、現民主党政権が確固たるイスラエル支持の姿勢を貫いてきたことと無縁ではない。

 しかし、今年1月に入り、イスラエルに対するバイデン政権のスタンスに微妙な変化の兆しが見え始めた。それを象徴的に示したのが、ブリンケン国務長官によるあわただしい「中東シャトル外交」だとされる。

 同長官は、昨年10月の戦闘勃発以来、イスラエル、ヨルダン、トルコ、アラブ首長国連邦、サウジアラビアなど関係諸国をすでに4回歴訪、各国首脳との相次ぐ会談を通じ、危機収拾の可能性を模索してきた。

 その中で特に注目されたのが, 去る9日、テルアビブで行われたネタニヤフ首相との直接会談だった。終了後、会談内容について、米国務省スポークスマンは「ハマスによるテロ行為防止のためのイスラエル側の行動を支持すると同時に、ガザにおけるさらなる民間被害を最小限に食い止めることの重要性を強調した」と述べた。

 さらに、同長官自身も会談後の記者会見で「ガザにおける民間人とくに子どもたち犠牲者を巻き込んだ惨状は目に余る」として間接的表現でイスラエルを批判すると同時に、ガザ地区の民間人救済目的で国連が新たに任命したシグリッド・カーグ人道援助調整官について「米政府は全面的に後押しする。イスラエルもそうすべきだ」と強調した。

 これは明らかに、ブリンケン国務長官歴訪のたびに対イスラエル支持表明を繰り返してきた従来の米政府の立場を修正したものと受け取られている。地元紙「Times of Israel」はこの点に関連して、「バイデン政権がイスラエルに対し、民間人のみならず民間施設を標的にした攻撃を避けるよう促したのは、今回が初めてだ」と論評した。

 英国BBC放送も、こうした米側の軌道修正について「イスラエルに対する従来の〝アドバイザー役〟から戦闘一時停止も視野に入れた積極的〝調停者〟への変身を意味するものにほかならない」と解説している。

身動きがとりにくいネタニヤフ

 さらに、このような米側の立場の変化との関連で見逃せないのが、最近になって脆弱性が露呈しつつあるネタニヤフ首相の国内支持基盤だ。

 ネタニヤフ氏は去る2021年6月、過去12年にわたる長期政権の間に表面化した政治腐敗などを理由にいったん退陣に追い込まれた後、翌22年12月には野党各党に働きかけ、6つの政党からなる〝寄り合い所帯〟の長としてかろうじて再び政権に返り咲いた。

 しかし、連立にはネタニヤフ氏が率いるリクードのほか、極右の「宗教シオニズム」、「ユダヤの力」、そしてユダヤ教超正統派「シャス」といった跳ね上がり的政党や組織も参加、イスラエル建国史上「最も宗教色、保守色の強い内閣」が誕生した。

 このうち、パレチナ占領地や警察行政に関わる重要閣僚ポスト二つを極右党首に握られた結果、「機能不全内閣」とやゆされるほど政局も不安定化し、今日に至っている。


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