2024年12月7日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2024年1月29日

 長年カメラのファインダーを通して棋士たちを見つめてきたカメラマンが、将棋界や棋士にまつわる思いを綴った。将棋界は昭和、平成、令和と時が流れる中で、それぞれの時代にスターが現れ、世の中から注目されてきた。報道される機会も多いので、いつ頃どんな棋士が活躍したかを覚えている人も多いだろう。相撲の力士がいつ活躍したのかを人々が鮮やかに記憶しているように、時代を画した棋士もまた多くの人の記憶に長く刻まれている。

(bee32/gettyimages)

時代によって変わる棋士の姿

 著者の弦巻勝氏は総合週刊誌のカメラマンになって将棋雑誌などを中心に活躍し、半世紀以上にわたって将棋界のスターを撮影してきた。本書冒頭のグラビアページに著者の作品が掲載されているが、いずれの写真も棋士それぞれの個性が際立っていて興味深い。

 著者は1974年に初めて東京・千駄ヶ谷の将棋会館に足を運んで以来、将棋に関わる仕事が始まり、78年から本格的にタイトル戦を撮影するようになる。本書には、大山康晴、升田幸三、米長邦雄、中原誠、加藤一二三ら往年のスターのほか、谷川浩司、羽生善治、そして藤井聡太といった面々が登場する。

 著者の指摘で興味深いのは、時代ごとに棋士の雰囲気が大きく変わって来たということである。昭和の時代は、麻雀と酒が大好きな棋士との交流が描かれ、棋士たちも「無頼派」が中心だった。

 戦後の大名人で長く将棋界に君臨した大山康晴氏が大の麻雀好きだったことや、対局に負けた森安秀光氏が車の走り抜ける路上で大の字になったり、将棋会館の窓から飛び降りようとしたりしたエピソードは事欠かない。写真週刊誌向けに鳥取砂丘に全裸で立ってヌードになった米長邦雄氏の写真は85年当時、物議を醸した。

 一方で、時代を経るごとに雰囲気はどんどんソフトなイメージへと変わっていく。著者の撮った写真を見てもそれは明らかだ。

 本書では「飲む・打つ・買うを地でいくような棋士が勝てない時代に移り変わったということだろう」と記される。


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