米豪防衛関係の緊密化は、豪州政府が対中関係の優先度を下げることを意味するわけではない。豪州は、中国経済に安定的かつ予測可能な形で必要不可欠な一次産品を供給する国であり続ける。中国との政治、防衛関係は今後も大きく変わることはないだろう。
アボット政権が直面する1つの課題は、中国の軍事力拡大に対する豪州の見解をより明確に説明することだ。
これまでの労働党政権は2度、国防白書の政策綱領でこれを試み、2度とも失敗している。09年には、当時のラッド首相の防衛政策は、地域安全保障についてやや悲観的な見解を示していた。白書は「中国の軍近代化のペースや範囲は、丁寧に説明されないと、近隣諸国に懸念材料を与える可能性がある」とし、「敵対する強国」が「我が国の入り口」で作戦を展開しようとした場合に豪州軍が取らざるを得ないかもしれない措置について論じていた。ここから生まれたのが、海軍の能力を大幅に拡大する計画だ。
ギラード首相時の13年の国防白書は、09年の政策綱領の内容の大半と一部の表現を改め、方針を転換した。主に中国との外交問題を生むのを避けるために、中国に関する表現は軟化し、13年の国防白書は09年版とは大きく異なる戦略的世界観を示した。地域安全保障に関してより前向きな展望を描き、国防費削減の正当性を訴えた。
アボット政権は米豪同盟の協力関係を強化し、日本やインドネシアなどの主要な友好国・同盟国との防衛関係を緊密化させると同時に、中国への関与の重要性を強調するだろう。アボット氏は10年以内に国防費を国民総生産(GNP)比2%に戻すことを約束した(現在は1.6%)。
アボット政権も、これまでの政権も、中国のことを直接的な軍事的脅威とは見なしていないが、戦略的な競争の激化が地域安全保障に与える影響については、豪州は大きな懸念を抱いている。これが最も明白なのが、中国北部と南シナ海において対立する主権の主張だ。豪州の外交努力は、各国の主張について平和的解決を求め、中国に対しては、もっとオープンに自国の軍拡の戦略的正当性を説明することを求めることに向けられる。