オランダとの緊張関係の高まり
そして、この事件はロシアとオランダの関係悪化も導いた。グリーンピースが本部を置くオランダは本件に特に強く抗議し、10月4日には、オランダのティメルマンス外相が、ロシアの拿捕の合法性は定かではなく、ハンブルグの国際海洋法裁判所に提訴して同船を取り戻す意向を発表した。
両国の対立の土俵は広がっていった。10月8日、プーチン大統領は、ドミトリー・ボロディン駐オランダ公使が5日深夜に、ハーグでオランダ警察に逮捕され一時、身柄拘束されたことに対し、オランダ政府の謝罪を求めた。近所の人から子供たちが虐待されているという通報を警察が受け、警察が同氏宅に駆けつけると、同公使は酔っぱらって、子供の髪をつかみ引きずり回すなどの暴行を働き、同氏の妻も、同日、酒に酔い車をぶつける事件を起していたという。
だが、同公使は警察が子連れだった自分を連行する際に、手錠をかけられた自分の頭を小突き、1歳の娘の髪の毛を引っ張りさえしたと非難した。身元を名乗り、外交特権を持っていると述べたにもかかわらず、自分と幼児2人が逮捕された(翌6日朝釈放)と抗議している。
ロシア外務省も同氏の逮捕は、児童虐待の問題も孕むとして、オランダの駐ロシア大使を外務省に呼び、事件に関する「公式の抗議」を手渡した。オランダ側の、公使が幼児虐待をしていたという言明については、警察行為を正当化するための陳腐なでっち上げだと批判している。
ティメルマンス外相は9日、本問題についてロシアに正式に謝罪した一方、逮捕に関わった警察官の行為は理解出来るとも発表した。だが、この程度のことでは、両国間の緊張は緩和されそうもなく、ロシア当局は、同日、オランダの主要輸出産品であるチーズについて品質管理に問題があると発表した。ロシアが「制裁的」にある国の産品について問題をでっち上げ、禁輸措置を執るやり方は、特に旧ソ連諸国に対してよく行なわれており、まさに常套手段だ。また、追い打ちをかけるように、ロシア連邦捜査委員会幹部は、拿捕したグリーンピースの船内から麻薬が見つかったとも発表したのである。
そして、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の席上で、この逮捕が外交関係に関する諸条約の乱暴な違犯だとプーチン大統領が非難すれば、オランダ外務省が「もし捜査によって、外交関係に関するウィーン条約と相いれない行為が浮上してくるならば、オランダはロシアへ遺憾の意を表する」と声明するなど、両国共に強気な姿勢を崩していない。
ともあれ、この逮捕事件に対しては、グリーンピース活動家逮捕問題に対する意趣返しだとみる見方が大半だ。