人々の生活が危機にさらされているという「ナショナルな保守主義」がかき立てる恐怖を減ずるために、不満層の考えを一部取り入れてみることも必要であろう。
リベラリズムの強みは、状況に適応できることである。奴隷制度廃止や男女平等を目指した運動は、ある者は他の者よりも重要であるとの観念を壊した。社会主義による公平や人間の尊厳についての議論が福祉国家を作ることとなった。
リバタリアンによる自由と効率性についての議論が市場の自由化と国家権力の抑制に繋がった。リベラリズムは「ナショナルな保守主義」にも順応していかなければならない。今、その点で遅れを取っている。
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ウクライナ戦争で「極右」が躍進
この論説では、「ナショナルな保守主義」との文言を用いているが、近年、「ポピュリズム」、「非リベラルな民主主義」などと呼ばれているものと重なるものだ。「レーガンやサッチャーの新保守主義が経済面での自由主義を唱え、グローバリゼーション全盛の時代を導いたのに対し、「ナショナルな保守主義」は、自由貿易に懐疑的な態度を取り、国家の主権を強調しようとする点で異なる。その意味で「ナショナルな」との形容詞をつけているのであろう。
8年前の2016年には、「ポピュリズム」が注目を集めた。英国のブレグジット国民投票での離脱派の勝利。米国大統領選挙でのトランプの勝利。いずれも、事前の予想を覆す結果であり、ポピュリズムの勝利と言われた。
その後、21年のドイツ総選挙、22年のフランス大統領選挙などが注目されたが、いずれにおいても、この論説にいう「ナショナルな保守主義」が勝利することはなかった。そのため、ハンガリー、ポーランドの動向はあったものの、「ナショナルな保守主義」への警戒は一段落している感があった。
そこに来て現在の展開である。22年のイタリアの総選挙、23年のオランダの総選挙において「極右」とされる政党が勝利した。今後、予定されている各国での選挙において勝利や躍進が予想されている。