2024年5月15日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年3月12日

 各国それぞれの事情があるが、なぜこうした潮流の変化が起こったのかを考えると、ロシアによるウクライナ侵攻が一つの引き金となったと思われる。それが招いた物価高騰、生活苦の状況がこの論説が「恨みの政治」と呼んでいるメカニズムに再び拍車をかけたと見ることができよう。

世界の構図を変える恐れ

 西側先進国では製造業の時代が過去のものとなり、国民の広い層に経済的利益を行き渡らせることが困難となった。グローバルな競争が激化し、サービス産業が中心となり、先端的なIT技術を生かすことができるかどうかで経済的な立場に大きな差がつく時代となった。

 このように低成長の中、二極分化が進む状況は、「ナショナルな保守主義」への支持を生みやすい土壌を作っている。外的な衝撃や内部の事情があれば更に増殖する素地がある。

 現在、世界を①西側先進国、②権威主義国家、③グローバル・サウスの三つのカテゴリーに分けて捉える見方が一般的だが、「ナショナルな保守主義」が西側先進国を覆っていくと、世界の構図は大きく変質することになる。「ナショナルな保守主義」からすれば、西側先進国がこれまで依拠してきた「ルールに基づく国際秩序」は、少なくとも国内で政権を取るまでは、疑問を呈し攻撃すべき対象であった。米国の大統領選挙が注目され、米国の動向は重要だが、「ナショナルな保守主義」が支配するリスクがあるのは米国だけではない。

 この論説は、ナショナルな保守主義への処方箋として、政権党が「人々が持つ正当な恨みを真剣に捉えること」、「相手の考えを一部取り入れてみること」を挙げている。人々の求めているものに合わせて政策を適合させていくことは、いずれの立場にとっても重要なことであるが、「ナショナルな保守主義」の主張をどこまで現実の政策に取り入れるべきかは考えどころである。

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