2024年4月29日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年3月12日

 Economist誌2月17日号が、移民を敵視し、社会的多元主義を否定し、国家の組織を支配しようとする「ナショナルな保守主義」が各国で広がりつつあることの危険を指摘する巻頭社説‘The growing peril of national conservatism’を掲載している。概要は次の通り。

2024年3月5日米のトランプ前大統領(AP/アフロ)

 1980年代に米国のレーガン大統領と英国のサッチャー首相が市場と自由を旗印に新たな保守主義を構築した。今日、ドナルド・トランプ前大統領とハンガリーのビクトル・オルバーン首相らは、そうした正統主義を破壊し、その代わりに、国家の主権を個人よりも優先し、国家主義的で「社会正義」を否定する(anti-woke)保守主義を作り出しつつある。こうした「ナショナルな保守主義」はグローバルな運動となりつつある。

 「ナショナルな保守主義」は、個人が非情なグローバルな力に包囲されており、国家が個人の守り手であると見る。多国間機関への主権の共有を嫌い、自由市場はエリートに操られていると疑い、移民を敵視する。社会的多元主義、特に、多文化主義を軽侮し、「社会正義」やグローバリズムに毒されていると見なす機関を解体することに執念を燃やしている。

 「ナショナルな保守主義」はこれ以上広まらないだろうとの見方もある。脅威を与えるには一貫性に欠けているともみられている。しかし、そうした見方は許しがたいほど甘すぎる。

 「ナショナルな保守主義」は、恨みの政治である。政策が良い結果を生まなければ、政治指導者はグローバリズム擁護者と移民に非難の矛先を向けて世界が悪くなっていると主張する。「ナショナルな保守主義者」たちは互いに手を取り合って、共通の敵である移民(特にイスラム教徒)やグローバリズム擁護者に敵意を向けてきている。

 「ナショナルな保守主義」を軽く見ることができないのは、彼らが政権に就けばすべてが変わってしまうからだ。ハンガリーでの例が示す通り、彼らは、裁判所、大学、報道機関など国家の組織を掌握して権力を固めようとする。

 旧来の保守主義者や古典的なリベラル派はどのように「ナショナルな保守主義」に立ち向かうべきか。一つの答えは、人々が持つ正当な恨みを真剣に捉えることである。

 彼らの不満には耳を傾けるべき点がある。それを鼻で笑うことは、エリートの現実感覚からの乖離を示すだけだ。リベラル派も旧来の保守主義者もこうした不満を持つ層を相手にしていかなければならない。


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