台湾は成熟した民主主義で、その征服は自由民主世界からのより明確な後退だ。台湾の半導体産業は大きな経済価値があり、戦争で破壊されるか中国がこれを取り込めば、世界不況になる。
さらに、中国とロシアも同列に論じられない。ロシアは脅威だが、米国無しでも国内総生産(GDP)でロシアを大幅に上回る欧州が封じ込め可能なはずだ。中国の富とハード・パワーは全アジア隣国を大幅に上回り、台湾の征服は海軍力の急速拡大を可能にし、世界の経済関係を根本的に変え得る。
ウクライナでの完全勝利を目指すなら暫く台湾は第二の優先事項になるが、その場合は、中国の敵対意図はずっと先の問題だと賭ける必要がある。筆者(Douthat)はウクライナ支援タカ派と異なりそんな賭けはしない。ハト派とも異なりウクライナを見捨てもしない。支援を継続しつつ、解決を目指す方向での政策転換を図るべきだ。それができるかは米国にかかっている。
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「2正面作戦」からの転換
この論説の分析は筋が通っているように思われる。論説は、対ウクライナ支援反対派の考えは孤立主義ではなくアジア第一主義だと指摘するが、確かにそう理屈をつけることはできるだろう。
米国の各方面への戦線拡大による「欠乏状況」が言われて久しいが、これは、資源が豊富にある時には「戦略」は要らず、資源が限られて初めて、配分の優先順位付けのために「戦略」が必要になる、という現実を反映している。そして、これは、日本が2022年に戦略三文書を採択した背景と同じだ。
米国は冷戦後30年近く、「2正面作戦」に対処できる能力を保持することを基本としてきた。例えば、中東でのイランとの戦争とアジアでの北朝鮮との戦争に同時並行で対応し、勝ち切るだけの能力を保持する、ということだ。
しかし、18年の国家防衛戦略は、これを「1正面/1.5正面作戦」に転換した。従来の2正面作戦が2つの比較的弱い敵(ならずもの国家)への対応を想定していたのを、1つの超大国(中国やロシア)への対応に集中し、同時に他の国が機会主義的紛争を起こすことを抑止することに方向転換したのである。
この方向性自体は正しいが、国防費は、冷戦時代にはGDPの5~6%あったのに対し、その後低落し、24年には3.1%になり、32年には、2.7%になると予測されている。引き続き米国は世界唯一の超大国だが、その優位性の低落は明らかだ。